2012年05月28日

若州人形座の竹人形文楽「曽根崎心中」を見る、水上勉の生地福井県おおい町にて

 昨日5月27日、晴天の日曜日、誘われて福井県おおい町の「若州一滴文庫」を訪ねた。目的はこの日上演される「若州人形座の竹人形文楽「曽根崎心中」を見るためである。京都市内からバスでおよそ2時間半。作家水上勉の生家の近く、晩年の彼がここを工房とし、執筆し、竹の紙をすき、竹人形の作り、上演をした場所である。水上勉の2万冊の蔵書があり、竹人形が展示され、そして年に数回人形芝居が上演される。
 この村に生まれ、京都の寺に奉公に出て、人生の辛酸を味わい尽くした後作家として大成した水上勉の人生を思った。彼の作品の多くは映画になっている。「越前竹人形」、「五番町夕霧楼」、「はなれ瞽女おりん」、「雁の寺」などを見たいと痛切に思った。
 「大飯原電」という矢印があり、島に向かって堅牢な橋が延びていた、重なった島影の向こうに今休止中の大飯原子力発電所がある。「水の一滴」から名付けられた工房をこの地に作った水上勉は原子力発電にはきわめて批判的であったことが知られている。

 後半生、彼は竹に見せられ、竹で漉いた和紙と竹細工に没頭したが、同時に越前竹人形の上演を契機に、竹で作った文楽人形を次々に制作し、彼の多くの作品を舞台に移した。近松の「曽根崎心中」は水上勉自身が現代語にした語りがつく。ただそれだけではなく、歌舞伎や文楽の本舞台では省略されるプロローグ「観音巡り」を、水上は復活させた。浪花の33ヵ所霊場巡りは、観世音菩薩が、闇夜をさまよいつつ行く民草を導くのだがそれは、お初、徳兵衛の悲しい物語を暗示して劇的効果を高めている。さすが作家水上勉ならではの慧眼である。この「観音巡り」は昨年上演されて話題となった杉本博司演出の「曽根崎心中」にも取り入れられている。私の想像では、杉本は水上版「曽根崎心中」に触発されたのではないかと思う。
 竹を素材にした文楽人形は、そのしなやかな動き、繊細な手足、写実的な表情など、木組みの文楽人形を上回る芸術性を持つ。水上勉は後半生、竹文楽人形に多くの精力を注ぎ、私財を投じた。それを引き継いで若州竹人形座は年数回の上演を継続しているが、財政的支援が必要だ。
 今回の公演は300席の劇場から人があふれんばかりの盛況だったが、全国公演の機会も少なくそれだけでは十分とはいえない。
posted by media watcher at 11:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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