2016年05月12日

講演記録「今日本のマスコミは一体どうなっているか」3月11日 大阪民衆史研究会 隅井孝雄

 大阪民衆史研究会3月例会講演 3月11日 大阪府教育会館
「今日本のマスコミは一体どうなっているか」

 高市発言と放送法
 隅井さんは、かつて日本テレビに在職、退職後は大学に勤務し現在はフリーの立場で日本ジャーナリスト会議の代表委員などを務めている。最近の安倍政権によるメデイアへの介入について、テレビの報道番組映像を参考にしながら、問題点とくわしい背景について説明された。
 高市総務大臣の「放送法第4条」に関わっての「電波停止」という恫喝発言は、マスコミ界と多くの国民の怒りを招いた。テレビキャスターによる怒りの合同記者会見も開かれた。放送法は、放送の民主化のためにつくられたもので、放送法の編集準則は法的な規制ではない。高市大臣がそもそも放送法を曲解しているのだ。過去に放送法に関わる免許の問題が起こった例は2件ある。1989年京都KBSテレビに対してイトマン問題の許英仲らが150億円の抵当権を設定した際、組合員らが団結してボーナスや給料を担保に会社更生法を申請、放送を継続した。また1965年テレビ東京の前身科学技術財団テレビが倒産、日経資本が買収する際に放送免許が問題となった。いずれも、番組の内容で免許が問題になったことはなく、経営が行き詰まって放送免許が問題となった。番組内容が理になって免許停止になることはない。

 岸井、古館、国谷の3名の降板
 国谷さんの場合は、2014年12月に菅官房長官をゲストに迎えて、「集団的自衛権」問題についてインタビューが行われた。「第3国からの攻撃の恐れはないのか?」「国民の不安はどう払拭するのか?」という質問に対して、菅氏が「答えはない」「(国民には)ていねいに答える」などの回答を行って、「それでも不安がぬぐえなかったらどうするのか?」という質問のあと放送が終了した。放送の後、菅が「説明しに来たのに」と激怒したという。その後、「フライデー」記事によると、官邸サイドからNHKに「土下座して謝れ」という恫喝があったという。現場では国谷さんの続投が支持されていたが、NHK上層部の意志で国谷降板が決まったという。
 岸井氏の場合、読売、サンケイに一枚もの右翼的な批判広告、「安保法制に反対を続けると発言したのは偏向」がきっかけとなった。古館氏の場合、番組途中でコメンテイターをしていた古賀氏が政府や官房長官からの圧力があった内情を暴露し、「I am not ABE」という文字を書いたカードを示すという「事件」があり、テレビ朝日への攻撃が集中した。
 いずれのキャスターも信頼感があり、それぞれの報道番組も視聴率は高く、良心的で公平な報道を行っている。どうしてこの3名が降板しなければならないのか?

 憲法「改正」と放送局支配のたくらみ
 放送局に政府自民党や財界から圧力がかけられていることは、さまざまな情報から明瞭である。なぜ安倍政権は放送局に圧力をかけるのか?その背景にあるのは、安倍首相が政権の目標として公言している憲法「改正」だ。
 安倍首相と自民党が意図しているのは、第1に憲法9条2項(戦力の不保持、交戦権の否定)の「改正」、そしてさらに「自民党憲法草案」による憲法の全面改悪である。
 しかし、日本国民の平和志向は強く、読売、サンケイを含む各新聞の世論調査はいずれも9条改正反対が賛成を上まわっている。安倍政権は憲法「改正」目的のためには、どうしても世論を変えたいのである。そのためにはマスコミを支配下に置くしかない。そこで第2次安倍内閣では、まずNHKに手をつけた。籾井会長の送り込みである。

 籾井会長とNHK
 前会長の松本氏は「民主党政権下で選ばれた」ことで安倍首相が嫌い、変更したという。籾井氏の実家は九州の炭鉱会社だ。自民党の麻生氏とは友人関係で、三井物産を退職後、麻生氏の推薦で財界有力者から構成される「四季の会」が支持し、これに総務省や自民党も了解したという。NHKの予算6800億円のうち9割が受信料で成り立っている。その会長人事を政府、財界の一部の者で決定してよいのだろうか。籾井氏は、その後さまざま問題発言、行動を繰り返しているが、いまだ辞任という事態にはたち至っていない。
 籾井会長のもとで、「NHKの国際放送では日本の利益を守っている」と強調されている。現在、世界で信頼される国際放送はCNN(アメリカ)とBBCワールド(イギリス)である。日本のNHKの国際放送は中国のCCTVと同様、信頼されていない。中東訪問中の安倍首相が「イスラム国と戦っている国へ2億ドル拠出する」というスピーチを行い、NHK国際放送がこれを生中継した。その直後、「イスラム国」はこれを受けて後藤さんの身代金要求と殺害を実行した。NHK国際放送は今や国策の道具になっているから、このような悲劇が起きる。
 安保法の国会審議当時の国会包囲行動の報道などで、NHKと民放局のちがいは際立っている。8月30日夜の国会包囲のデモ集会の報道時間は、NHKニュースでは2回あわせて2分30秒、31日の報道ステーションでは20分であった。

 マスコミの力は全国的には、おとろえていない
 政権側はNHKや読売だけでは不十分と考えている。そのあせりの発言が、「沖縄の二紙はつぶすしかない」や「マスコミをこらしめるには広告収入を減らせばいい」など、百田発言などにも見られる。その本音は、「朝日」「毎日」「東京」の比較的リベラルな三紙を何とかしたいらしい。なにかあるたびに、テレビ局が自民党に呼び出されている。選挙に関しても、民放4局に、自民党から「選挙番組の出演者の選定、発言」や「街頭インタビュー」、「資料映像」などに「偏り」をなくすことなどの要望が出されている。
 新聞では自民党、財界寄りといわれる読売、サンケイで部数1000万弱、これに対して朝日、毎日で900万強、比較的健全公正な地方紙1700万部を加えると、まだ国民の立場に立つメデイアの方が3:2ぐらいで優勢である。しかし、最近のニュースキャスターや記者の交替など、次第に現場が息苦しくなっていることも事実だ。

 メデイアに政権が介入する国家は民主主義国家ではない
 世界の民主主義国家を見渡して、政府がメデイア、放送にこのように露骨に介入している国はない。政府がマスコミを支配している典型的な国家は、北朝鮮、中国、ロシアだ。先進国で、政府がこんな露骨な介入をしている日本は異常としか言いようがない。
 先進民主主義国では、放送の「免許取り上げ」という考え方はなく、客観的な立場の第三者委員会(フランスのメデイア評議会やドイツの放送委員会など)が放送の基準や免許のコントロールを行っている。日本は「BPO」が放送内容の倫理性など一定の基準の役割をはたしているが、政府・与党がNHKのトップを任命し予算を左右しており、高市発言にみられるような「免許取り上げ」という脅迫を大臣が堂々と行っている。最近似たような動きがポーランドで起こった。新たに発足した右派政権がポーランド公共放送の首脳人事入れ替えなど、介入の動きを強めたことに対して、国民が抗議する動きが拡がっている。これを支持する国際環境としては、EUが放送への政府の介入を許さず報道の自由とメデイアの独立性を守る「報道憲章」を持っており、ジャーナリストを抑圧する対象にしてはならないということを明確にしている。
 イギリスのBBCでは、かつて北アイルランド問題で政府が圧力をかけてきた際にストライキで抵抗した。イラク戦争の際にも政府の立場に反して報道の公正さを維持した。その結果、BBCはイギリスでもっとも信頼できる放送局とされている。

 公正なメデイアを守るために
 欧米ではメデイアを監視する市民運動がさかんである。メデイアの批判とともに公正な活動を行っているジャーナリストを擁護する運動も必要である。現在のNHKをめぐる異常な事態に対して、NHKと籾井会長への批判の運動が全国(17都市)で起きている。民主主義の社会を維持するために公正・客観的なメデイアを守ることは重要な課題である。隅井さんは、現在行われている安保法廃棄を軸にした野党連合のスローガンにメデイアの民主化を掲げる必要があると言われた。我々も、現在のメデイアの状況に非常に不安感を持っているが、案ずるよりも、欧米のように公正なメデイアを守る運動をすすめるべきであろう。政府のメデイアへの介入を批判し、すぐれた番組やキャスター、記者の活動を応援し擁護する声を上げてゆくことが求められている。これは今すぐ出来ることである。
posted by media watcher at 22:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 隅井孝雄のメディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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