2015年11月21日

テレビドラマドラマ評「経世済民の男5回、放送90周年記念と銘打ってNHKが五回にわたって連続放送。高橋是清、小林一三、松永安左衛門、戦前、戦後の日本経済の軌跡を描いた

 庶民への眼差しは本物だったのか? 喜劇の手法で、経済の現状への諷刺描く
 
 NHKの「放送90年、経世済民の男」という三本5回の特集ドラマを見た。辞書を引くと経世済民は”世の中を治め、民の苦しみを救う”とある。時の総理が「経済再生」を呼号している最中、NHKが”経済の歴史認識”をどのようにドラマ化するのか。とびきり腕利きの三人の脚本家が競作する「経済」ドラマだけに緊張気味に見入った。

 ジェームス三木が挑戦した、戦時経済の鬼、高橋是清
 第一話はジェームス三木が描く歴史ドラマ「高橋是清」(8月22日,29日)。日露戦争、金融恐慌、関東大震災、満州事変という荒波を歩んだ破天荒な経済人だ。森有礼のひきで浪人生活を脱し、特許局の初代局長となるもあっさり離職、のち日銀入り、総裁を経て大蔵大臣、総理への道に上りつめる。朝鮮半島、満州の権益の衝突である日露戦争の戦費調達や、昭和恐慌後の財政再建に驚異的な手腕を発揮した。そして軍事費削減を打ち出して二二六事件の凶弾に倒れる経緯がスピード感を持って描かれた。しかし、彼が財閥系大企業を優遇し、対外進出のための軍事費に資金投入することで、軍国主義経済の基盤を固めながらも、反乱軍の標的になった歴史の皮肉に突っ込みが欲しい、と思った。
 
 森下佳子が描いた庶民派実業家、小林一三
 第二話の「小林一三」(9月5日, 12日)は森下佳子がコミカルタッチで異色経済人の生涯を描いた。うだつの上がらぬ銀行員が思わぬ経緯で鉄道経営に挑むまでが前編。後編は鉄道と住宅開発を一体化、遊園地、宝塚歌劇、百貨店、東宝グループと、娯楽を経営に結びつけて民衆を取り込む発想の広さを描く。戦時中小林は短期間商工大臣になるが、統制経済に抗して辞任に追い込まれた経緯ももりこまれた。三人の中では民衆の喜びを最も深く共有しようとした資本家像であり、だるまのキャラクター、少女歌劇の初舞台再現など、番組の構成演出も楽しめる要素たっぷりだった。
 
 池端俊作が挑む、強引硬骨漢、戦後経済牽引の松永安左衛門
 第三話「鬼と呼ばれた男、松永安左右衛門」(9月19日)はベテランライター池端俊作が挑んだ。戦時中の電力国家統制をよしとせず表舞台から退いた松永。その彼が戦後の晩年、官僚の抵抗を排して電力民営化を実現させたエピソードに絞って描いた。サンフランシスコ条約締結が迫る中、電力再編成審議会の会長として、撤退直前のGHQを動かして、反対を押し切ったのだ。強引に敵を屈服させた手法は、ドラマとしては強烈な印象だった。しかし再編成された電力各社が地域独占の核となったその後の歩みは、日本列島にある種の傷痕を残したことも語る必要があったのではないか。

 破天荒な人生を生きながら政治のトップの座についたオダギリジョー(高橋)、経済人として成功するも、華やかなステージでタップを踏む阿部サダヲ(小林)、長く伸びた白い眉毛をトレードマークに政界を翻弄した吉田鋼太郎(松永)、それぞれが要求されたやや過剰な演技を実によくこなしていたのは印象に残る。脚本家と演出家は、それぞれの主演俳優をコミカルな演技で描くことで、シリーズの筋を通したのではないか。
ドラマの中の主人公たちは、ある意味で時代を見通す眼力を持った人物たちであったが庶民への眼差しは三人三様。必ずしも「経世済民」が旗印に翻っているとはいえない部分もあった。しかし、全体として見れば、経済の21世紀の現状に対する諷刺でもあると読み取ることができる。(すみいたかお、ジャーナリスト)

 この記事は2015年11月5日しんぶん赤旗ラジオテレビ欄に掲載された
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