2014年03月16日

公共放送、アメリカの場合、日本の場合

この記事は「月刊、マスコミ市民第542号」2014年3月に掲載された
★ビッグバード(セサミストリート)の大活躍
2012年アメリカの大統領選での第一回テレビ討論(10月4日)の論争は、現職のオバマ候補が経済回復策で巻き返せるかどうかが焦点となり、高い視聴率を取った。その中で突然、公共テレビPBSの人気番組キャラクター、Big Birdが話題をさらうという出来事が起きた。
テレビ討論のこの日の司会者はPBSニュースアワーのベテラン司会者ジム・レーラー。それまで民主党のオバマ候補とやり合っていた共和党ロムニー候補が、突然司会者の方に向き直り次のような発言を行った。「悪いけどジム、PBSの補助金は減らさせてもらうよ。私はジムやビッグバードが好きなんだが・・・」
公共放送には年間4億4500万ドル(およそ445億円)の補助金が支出されている。ロムニー候補は財政支出のカットが必要だとして、PBSへの補助金を1億ドル削減することを求めたのだ。「ビッグバード」とは人気番組「セサミストリート」のぬいぐるみマペット、黄色の首の長い鳥。番組の中で問題が起きると巧みに解決する能力を持っていることで知られ、抜群の人気を誇る。
ロムニー発言が終わらないうちに、中継放送中の各テレビ局に電話が殺到、また「クビになるビックバード」と名乗るツイッターが登場、瞬く間に14万件の書き込みが集中した。PBSへの補助金減額を非難し、ビッグバードを救えという書き込みばかりだった。
ロムニー候補は、PBSが一般大衆にいかに愛された存在であるかを読み違えたのだ。ビッグバードに助けられたオバマ候補は、その後数回のテレビ討論を優勢裏にのりきり、二期目の続投を確実なものとした。
公共放送協会(CPB)が受け取る連邦政府の交付金を傘下の各地のPBSテレビ349局に配分する。各局はそれだけでは全く足りないので市民や企業からの寄付金、協力金、大学の助成などあの手この手で受ける。金額が多いのは年に4回ほど実施するナマ放送しながらの基金募集キャンペーン。スタジオには著名スターたちが陣取り、PBSはあなたのテレビですとばかりに一日中、基金を受け取る。各局に配分される助成金は必要とする経費の10%前後というから、私の試算では、ざっと40億ドル(4000億円)ほどの資金を運営費の足しにしていると見られる。(トータルの収入はどこにも記載がないのだが・・・)。
ちなみにNHKの年間予算は6479億円(25年度)、そのうち受信料収入が6221億円。日本では一般市民が受信料という形で圧倒的に多額な公共放送の資金を負担していることがよくわかる。
★視聴者に強固な基盤、共和党の攻勢耐えるPBSファミリー
アメリカの公共放送は過去繰り返し共和党の批判で窮地に立っている。1995年当時米下院のニュート・ギングリッチ議長が補助金の全廃を提案したが、抗議電話が議会の全共和党議員に殺到、提案をあきらめたことがある。
2003年から2005年にかけて、当時のブッシュ大統領と親交のあるケネス・トミルソン氏(元VOA放送の会長)、が公共放送協会(CPR)に送り込まれた。彼はいわゆる「リベラル偏向」の番組を一掃しようと画策したが、それは「公共放送協会法」の規程(会長が番組に介入できない)に反する行為だと、外部監査委員会の勧告を受けて辞任した。PBSには役員の政治的見解と番組編成は一線を画する、という規程がある。
2011年にはオバマ大統領が600万ドルの増額を求めたことに対し、共和党が強硬に反対、逆に削減を求めた。結局2012年は現行通りとなったが余波が2012年の大統領選に影響し、前記のようなロムニー発言となった。
共和党は予算削減または全廃の理由として、ニュース番組などの「リベラル偏向」を第一にあげている。しかし、PBSテレビの「ニュースアワー」やWGBR(ボストン公共局)のドキュメンタリー、一連のクラシックコンサートなど、民放三大ネットワークにはない番組として、視聴者の支持を受けている。
★国際放送補助金、「国の意に沿う番組」?即返上したい。
遠いアメリカの話しだとばかり思っていたが、私たちに身近なNHKで同じことが起きた。
日本の公共放送であるNHKの番組に対し。自民党が原発だ、歴史認識だ、慰安婦だ、でしばしばクレームを付けてくる。ついに経営委員を送り込み、会長も送り込んだ。まさに安倍ジャックの様相を呈している。新会長は国際放送では政府の見解をそのまま放送すると就任記者会見で発言した。公正なジャーナリズムを脱ぎ捨てようというわけだ。
しかしよく見て欲しい。NHKに視聴者が支払う受信料は6221億円(平成25年度)。基金募集を除くアメリカPBSの基礎予算の14倍。これだけ強固に受信者に支えられている公共放送は世界に類例がないともいわれている。それならば、わずか受信料収入の0.56%、35億円の国際放送交付金はあっさり返上した方が良い。国際放送で海外の市民との親善のため、日本を多く知ってもらうことが必要なら、市民、視聴者が応分の寄付をすることも可能だろう。海外に進出している企業も、何らかの形でもっとNHK国際放送を応援し活用する方法もあるのではないか。国際放送に限っては企業広告の解禁もあり得るのではないか。とにかく、補助金を引き替えの、命令放送、国策放送は即刻お引き取り願いたい。
放っておくと、わずか35億円の補助金が導火線となり、NHK全体が国策放送にのみ込まれかねない危機を感じる。

このほか、NHKの会長や経営委員の選出方法を、視聴者も投票できるようにすることも含めて改革するとか、候補になった時点で自らの所信を述べる番組をNHKが放送し、視聴者に人物を知ってもらう工夫などもやれば出来ることが数多くある。あるいは民間公聴会で候補者の考えを糺(ただす)仕組みがあってもいい。知恵はいくらでもある。
総合的なNHK改革について、この機会に各方面から次々に出てくることを大いに期待したい。
posted by media watcher at 16:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 隅井孝雄のメディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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