2013年09月06日

映画評 苦難が凝縮した第二次大下の庶民の暮らし、映画「少年H」と今の時代 、

苦難が凝縮した第二次大下の庶民の暮らし、映画「少年H」と今の時代

この記事は京都民報、文化欄、9/8/201、に掲載されたものです。

日々つのる息苦しさがリアルに描かれた
映画「少年H」が東宝系の映画館で上映されている。
神戸にあった妹尾洋服店の親子4人の、太平洋戦争へと進む時代の庶民の暮らしを克明に描いた作品だ。
原作は舞台美術家でエッセイスト妹尾河童の少年時代を回想して描いた自伝小説だ。妹尾はかつてフジテレビの音楽番組やドラマの映像美術を手がけており、同じ時期にテレビ業界にいた私も面識がある。
少年H (吉岡竜樹)は妹尾河童の子ども時代の名前である「肇(はじめ)」の頭文字Hを母親(伊藤蘭)が刺繍して縫い付けたシャツを着て町かけまわっていたことからそれがタイトルになった。父親妹尾守男(水谷豊)は神戸の居留地の外国人をお得意に持つ腕利きの洋服仕立て職人だ。
「少年H 」が小学3年生だった1941年(昭和16年)から中学生になった1945年(昭和20年)、拡大する中国侵略、太平洋戦争、空襲そして敗戦という、暗い厳しい時代が背景にとなっている。
映画を見ながら私の脳裏にもまた少年時代の思い出が鮮烈によみがえった。私は妹尾河童より6才年下、東京の家が強制疎開で取り壊され、空襲のない岡山県の田舎に疎開した。妹尾一家が体験した、すべてを焼き尽くす空襲の業火は知らない。

新聞報道のうそを見抜く少年H 
少年H はアメリカからの絵はがきを一枚、大事に持っていた。父が洋服を仕立てていたアメリカ人宣教師が、帰国後に送ってきた。真珠湾攻撃のニュースを聞いた彼は絵はがきを手に「このアメリカと戦って勝てるのか」と疑問をつぶやく。さらに戦果を大々的に報じる新聞にも疑問を抱いた。これが元で父親がスパイの疑いで特高警察に手荒い尋問を受け、教会にも行っていた一家は周囲から白い目で見られ、学校の机に「スパイ」と書かれる。中学生となった少年Hは軍事教練に明け暮れる毎日を送る。しかしある日手にしていた西洋風のスケッチ画を見とがめられ、軍事訓練の教官に殴り倒される。
この中で私が注目したのは、少年H が新聞は本当のことを書いてないと級友の前で発言し、殴りかかられたシーンだ。少年Hは鋭く真実を見ていた数少ない日本人の1人だったのではないか。あの大戦下では希有な存在であったというべきだろう。
ちなみに、一連の教室のシーンは京都木屋町の立誠小学校で撮影されたと聞いた。立誠があってよかったと思い、少年H になおなお親しみがわいた。

新聞は「皇軍の赫々戦果」
日中戦争が始まった1937年(昭和12年)には1422紙あった新聞は「新体制下の」統廃合で、1943年(昭和18年)には55紙に減少した(この年アッツ島玉砕)。新聞はありもしない戦果を誇り、「撃ちてし止まむ」と呼号する存在となっていた。やがて敗色が濃くなっても、転戦、転進という言葉で、事実を伝える任務を放棄した。
ラジオ(当時は日本放送協会)は満州事変以降受信者が急増し敗戦の年1945年(昭和20年)には聴取者は700万人に達していたことから、国民の思想動員に最適と見られた。軍人がニュースを読み上げる「大本営発表」を伝える道具となり、ナチスドイツの宣伝放送を手本にしながら戦時色を強め、前線兵士や同行記者の録音、戦勝祈願集会中継、軍人の講話などが次々にながれた。ガダルカナル撤退では、原稿は情報局が書き、「敵に痛撃を与えて転戦した」と報じた。
歴史は少年H が正しかったことを如実に示している。

遠い戦争の記憶
映画の舞台となった鷹取駅あたりはもとより、神戸周辺の市街地には1945年(昭和20年)1月から終戦までの間、実に185回の空襲が襲いかかった。特に3月17日と6月5日の大空襲は神戸、阪神間の市街地を壊滅させた。その様子が映画では克明に再現されている。少年H が猛火の中をかいくぐって運び出したミシンによって戦後、父親はふたたび洋服を作り始め、一家を支えることになった。
空襲を知らない私は、諳んじた軍歌を歌って得意になって歌う「少国民」だった。神戸にいた少年Hのように、時代を見る鋭い目を持たぬまま、気がついたときは終戦を伝える天皇のラジオ放送の前に直立不動で立っていた。
少年Hの一家はキリスト教会に通っていたことなどからスパイと見なされ、教室で同級生からの言われないいじめを受け、父親も特高警察の取り調べを受ける。親しくしていた向かいの「うどん屋の兄ちゃん」(小栗旬)がある日思想警察に連行された。映画館の撮影技師だった「オトコ姉ちゃん」(早乙女太一)は出征令状を受け歓呼の声に送られた後、脱走して首を吊った。このような映画の出来事は遠い昔の話だと私は思い、これまで平和な日常の暮らしを楽しんできた。

今の時代に鋭い眼差しを!!
だが最近、たまたま手にした自由民主党「日本国憲法改正草案」を見て愕然とした。
その第21条「集会、結社、及び集会の言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する」という項目に次のような条項が付け加えられているのだ。
「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的とした結社をすることは、認められない」。
もしこれが憲法に盛り込まれるなら、「少年H 」に描かれた人々と同じ運命を日本が、人々がたどることになる。
私たちは少年H と同じような鋭い眼差しで今という時代を見つめる必要があるだろう。
posted by media watcher at 12:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 隅井孝雄のメディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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