2013年06月21日

憲法改正とマスコミ報道  どうなる9条、国防軍、海外派兵、安倍政権は高いハードルに直面している、

このレポートは6月16日に行われた「京都府向日市4校区憲法9条の会」での講演をまとめたものである。隅井孝雄

1.安倍晋三首相は、7月の参議院選挙で憲法の改正を争点としている。当面は96条の変更で国会での過半数で改正できるよう(これまで2/3)にしたいと言っているが、国民の支持が少なく、ややトーンダウン。これまで「96条の改正を選挙の争点として堂々と闘う」といっていたのに5月12日の議会答弁の中で、「反対意見が多いのは事実。国民投票に付したら否決される」と認めた。しかし、改憲そのものについては「いささかも揺らいでいない」といっている。

2.自民党の「日本国憲法改正草案」は1、天皇を元首にする、2.日の丸、君が代を憲法に明記する、3.自衛権を認める、4.国防軍創設する、5.国民の権利は「公益、公の秩序に反しない限り」、6.表現の自由、結社の自由、居住、移転、職業選択、「公益、公の秩序を害するものは認めない」、7.公務員の団体権の制限、8.政党法の制定、9.緊急事態宣言条項の新設、などが主要主要点だ。また随所に、個人主義の否定、日本国籍以外の投票全面否定など国民を縛る条項が盛り込まれている。

3. そうした中で読売新聞(2004年)、産経新聞(2013年)は社としての憲法案を作成、それをキャンペーンすることで自民党の改憲の動きを支え、加速する役割を果たしているのが目立つ。読売新聞の場合今年に入ってから、「橋下インタビュー、96条改正必要」(1/28)、「安倍改憲インタビュー」( 4/16)など立て続けに紙面を割いており、自民党改憲日程も詳細に紹介している。(4/17)、社説で参院選では憲法を争点に(5/3)と論陣を張った。産経も自民党憲法草案と似通った「国民憲法要項」発表してキャンペーン中だ(4/26)

4. NHKはこれまでほとんど憲法に触れなかったが、6月11、12日にニュース9で特集。TBSは「サンデーモーニング」、「報道特集」などで長時間の特集を繰り返し組んでいるが、民放は全体として及び腰が目につく。
新聞で明確に反対の論陣を張っているのは朝日、毎日、東京の三紙。日経の場合、改憲そのものは容認しているが、96条先行は問題ありとしている。地方紙で改憲賛成、96条改正賛成を打ち出しているのは北國新聞一紙、その他の地方紙のほとんどは改憲の動きに否定的で、96条改正反対ではほぼ足並みが揃っている。京都新聞の場合5月3日社説「立憲主義の根幹壊していいのか」と憲法の歴史を植木枝盛の自由民権運動にさかのぼって論じ、安倍政権の動きを批判した。
96条に限ってみれば、賛成派は読売、産経、北国など1220万部、96条反対派は朝毎東京三紙1250万に憲法擁護の地方紙を加え3000万部超える、(新聞総発行部数4600万部) 

5. 9条、96条についての世論を見ると憲法擁護は明らかに過半数を超えている。
96条賛成38%、反対54%(朝日)、38%、55%(東京)、35%、51%(読売)、25%、51%(TBS)という状況でかなり差が開いている。9条の世論を見ると、変えない52%、変える39%(朝日)、58%、33%(東京)、などが最近の世論調査結果で、護憲の勢いはまだまだ衰えていない。
96条改正の安倍政権の勢いを止めた人物がいる。憲法学者の中で改憲(自衛隊の認知)を主張してきた慶応大学の小林節教授が、擁護派の樋口陽一東大名誉教授らとともに最近「憲法96条の会」を結成した(5月23日)。小林教授は「内容を明らかにせず、改正要件のハードルを低くするのはご都合主義でペテンだ」と激しく安倍政権を非難、全国を駆け回って講演している。新しく発足した「憲法96条の会」は6月14日、東京上智大学で結成記念シンポジウムを開催したが、参加者が予定の5倍に達して会場があふれ、ビデオで会場外に流すなど活気にあふれた。
自民党の憲法草案に反対する動きはある意味、超党派の広がりを見せていると6月11日放送のNHKニュースウォッチ9の憲法特集は解説している。NHKはその一例として、共産党の機関紙「赤旗日曜版」に自民党の古賀誠元自民党幹事長のインタビュー記事が載ったことを紹介した。NHKが共産党をその他の政党としてではなくその動きを正面から報道したのは珍しい事例だ。

6.憲法はアメリカの押しつけだから改訂すべきだという意見が多い。しかし最近の研究で、必ずしもマッカーサーの独断ではなく、戦後の国際的理念を反映するとともに、日本国内の民間の「憲法問題研究会」の報告書が大きな役割を果たしたことが明らかになっている。
平和主義の源流は、第一次大戦(1914-18年)後の国際不戦条約だ。日本も調印した。「国際紛争のため戦争に訴えることを否とする。国家の政策の手段としての戦争を放棄することを宣言する」(1928年)が起草関係者に強い影響を与えたことが知られている。また、起草作業とほぼ同時期に制定された国連憲章第2条4「すべての加盟国は武力による威嚇、または武力の行使を慎まなければならない」(1945年)も影響をあたえた。
一方鈴木安蔵、高野岩三郎らの憲法研究会が憲法草案を作成、植木枝盛らの自由民権運動を反映したこの草案はGHQに提出(1945年12月)された。草案によれば、「統治権は国民より発する」、「天皇は国民の委任により儀礼を司る」とされ、男女平等、言論の自由、平和主義なども盛り込まれている。
マッカーサー草案の作成に中心的役割を担ったGHG法規課長のマイロ・ラウレル中佐の報告書と証言テープがアメリカ、ミズーリ州の「トルーマン・ライブラリー」にあることを発掘したNHKによると、憲法研究会の憲法草案はラウレル中佐によって詳細に分析され報告書がマッカーサーに提出された。「ここに含まれている条文は民主的で受け入れられる。これに若干の改正を加えればマッカーサーが満足する憲法案が出来る」と語っているラウレル発言をNHKは番組で紹介している。(2007年5月2日放送、憲法秘話)

7.第二次大戦後世界各国でも憲法や軍備に関する検討が行われ、様々な論議が展開されたことがうかがえる。この結果紛争の平和解決、戦争の放棄宣言、侵略戦争否定など様々な工夫が欧米、アジア各国の憲法に盛り込まれた。イタリアの憲法では軍隊こそは否認されなかったものの戦争の放棄が明記され、フランス、ドイツ、韓国が憲法で侵略戦争を否定した。
イタリア憲法第11条(戦争の制限および国際平和の促進)、イタリアは、他人民の自由に対する攻撃の手段としての戦争及び国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄する。国家間の平和と正義を保障する体制に必要ならば、他の国々と同等の条件の下で、主権の制限に同意する。この目的を持つ国際組織を促進し支援する。フィリピン共和国憲法第2条「フィリピンは国策遂行の手段としての戦争を放棄し、すべての国との友好の政策を堅く支持する」
軍隊を持たない国も地球上に26カ国存在する。アイスランドではNATO軍がかつて駐留していたが現在は撤退している。また中南米カリブではコスタリカだけではなく、パナマ、グレナダ、ドミニカ、ハイチ、セントビンセントなどが非軍備国である。またキリバス、ツバル、バヌアツの太平洋諸国も軍備がない。軍隊を持たないが他国の保護下にある国は、モナコ(フランス)、リヒテンシュタイン(スイス)、マーシャル諸島(アメリカ)、ミクロネシア連邦(アメリカ)などである。
参考
国際紛争の平和解決、アルジェリア、エクアドル、ニカラグア、パキスタンなど
戦争放棄 アゼルバイジャン、エクアドル、ハンガリー、イタリア、フィリピン。
侵略戦争否定、フランス、ドイツ、韓国
軍隊を持たない国26カ国 アイスランド、サンマリーノ、コスタリカ、パナマ、ドミニカ、グレナダ、セントビンセント、ハイチ、キリバス、ツバル、バヌアツ、モーリシャス、ほか。他国に依存10カ国
8.国際条約で一切の軍事行動を否定している地域は南極である。1957年から1958年の国際地球観測年で南極における調査研究で協力体制を築いたが、南極保全の条約を結んだ。日本のほかアメリカ、イギリス、フランス、ソビエト連邦(現ロシア)、アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、チリ、ニュージーランド、ノルウェー、南アフリカの12か国が1959年12月1日に南極条約を採択した。
 第一条1 南極地域は、平和的目的のみに利用する。軍事基地及び防備施設の設置、軍事演習の実施並びにあらゆる型の兵器の実験のような軍事的性質の措置は特に、禁止する。
 
 9.憲法96条改訂は不人気で通りそうもない。憲法九条は国民の間で強い支持がある。国防軍、海外派兵については強い反対がある。また国民の基本的権利を制限する「公益重視」が自民党案に書き込まれていることに対しては強い反発がある。日本が憲法を改訂して軍事力を強化し、海外派兵を合法化することについては世界各国の強い反発がある。中国や韓国だけではなく、アメリカ、イギリスはじめ西欧各国も警戒している。安倍内閣は海外から見れば「ウルトラナショナリスト政権」であり「憲法改正は東アジアの摩擦要因」だという見方が強い。
 ニューヨークタイムス5月15日「日本のウルトラナショナリストたちは慰安婦についての1993年と1995年の謝罪(村山談話と河野談話)による日本がもたらした厄災、被害への謝罪を非難し、安倍新首相はこの謝罪を取り消そうとした。

 10.北東アジア、東南アジアで非核化、非軍事化のチャンスは以外に早くやってくるかも知れない。北朝鮮の非核化のためにアメリカと中国が足並みを揃える可能性があり、日本が憲法9条を堅持して、アジアの安定に貢献する道もある。
 私はアメリカの政治学者チャルマーズ・ジョンソン(元カリフォルニア大学教授)がかつてドキュメンタリー映画の中で述べた言葉が忘れられない。
 「第9条は日本の謝罪です。東アジアの諸国にこう宣言したのです。”30年代〜40年代の軍事行為の再現を恐れる必要はありません、自衛を除く武力をすべて公に、法的に放棄しますと”。9条の放棄は謝罪の否定です」。(The Constitution of Japan 2005年Siglo制作、John Yunkerman監督)
 彼は憲法を改定し、国防力を強化し、海外派兵への道を開くことはアジア諸国の強い反発を招き、アジアの安定が崩れる、それは欧米にとっても、世界にとっても望ましいことではないといっているのだ。
 憲法を改定するかどうかは単に日本の国内問題ではなく、アジアの平和と安定に関わる問題とし世界の注目を集めているという事を忘れてはならないだろう。
posted by media watcher at 13:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 隅井孝雄のメディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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