2010年11月28日

中国ジャーナリスト協会が「ジャーナリストの権利擁護」で声明(8月9日)ーー頻発する取材妨害、暴行行為にをさらされる記者たち、保安局の指名手配も

隅井孝雄のメディア・ウオッチ No. 1009  (通算194)
 
 2010.11.29
  中国ジャーナリスト協会が「ジャーナリストの権利擁護」で声明(89日)

    頻発する取材妨害、暴行行為にをさらされる記者たち、保安局の指名手配も

 

今年8月私は中国と北朝鮮を旅したが、その途中「全中国ジャーナリスト協会がジャーナリストの権利を擁護する声明を出した」というニュース(89日)に出会った。

声明は「不正をただすための取材はジャーナリストにとって欠かすことのできない権利である。これに対する妨害は看過できない」と言っている。

 

大物コメディアンの身内、北京テレビ記者を殴る

盛んにメディアをにぎわしているのは北京テレビの記者が不正事件のインタビュー中に殴り倒されたという事件だ。取材相手が大物コメディアンとあって話題が一挙に広がった。

テレビでも著名なスタンドアップ・コメディアン(漫談師)郭徳網(グオ・デガン)が公共緑地に別荘を増築しているとの疑いがあり、北京テレビの周文福(ツォ・ウェンフ)記者が取材に入り、81日当人をインタビューした。ところインタビューの最中にコメディアンの関係者とみられる男李郭彭(イ・ヘバイオ)が乱入、記者を殴り取材を妨害したという。

殴られているところの現場映像はインターネット上を駆け巡り、北京テレビでも放送され、北京っ子の話題を一手にさらった。殴った犯人は警察に一週間拘留され、200人民元(約30ドル)の罰金を支払ったという。

北京テレビの記者を手下に殴らせた郭徳網は「ジャーナリストは売春野郎だ」とテレビ出演番組中に発言したことがさらに波紋を広げた。北京市内の4つの劇場、寄席が郭グループの出演を全面的にキャンセルした。また北京市内の主な書店からは彼らの関連本、DVDが棚から消えた。北京テレビの人気番組「エンターテインメント・ニュース」では郭グループを出演させないとボイコット宣言を出した。

 

スキャンダル取材の記者たち、次々受難

中国ではこのところジャーナリストに対する取材妨害事件が頻発している。729日には深圳国際企業トップのインサイダー取引と女性スキャンダルを取材中のチャイナ・タイムス紙の女性記者陳暁宝(チン・シャオイン)が取材通報者を装った何者かに呼び出されて殴られた。さらに730日には毎日経済ニュース上海支局のドアを蹴破って数人の男が乱入、記者たちの襟首をつかみ、小突くという事件があった。乱入者たちは洗剤、化粧品の大手メーカー、覇王(バワン)グループに所属していることが分かり、のちに覇王グループは謝罪した。毎日経済ニュースは覇王のシャンプーに有害物資が含まれていると報じていた。

このほか東中国浙江省、遂昌の地区保安局は7月下旬、北京経済オブザーバーの仇子明(クイ・ズィミン)記者を捜査リストにのせた。仇記者は企業のインサイダー取引を取材中であった。中国の法律では「偽情報で企業の信用を落とす行為は犯罪とされる」とあり、捜査当局は仇記者の取材行為を犯罪対象にしたものとみられる。中国各地のジャーナリストの間に仇記者を支援する動きが広がった後、捜査リストから仇記者の名前は消えた。

 

広がる「取材自由権、知る権利、調査報道」の主張

一連の事件を受けた中国ジャーナリスト協会の声明では、「ジャーナリストの取材する権利を法的に保護せよ」と要求している。

CCTV(中国中央テレビ)の人気番組「対話」や「世界インサイド」を司会するジャーナリスト田薇(ティアン・ウエイ)は、中国で調査報道が定着しつつあり、しかも市民権を獲得し始めていると見る。

中国人民大学メディア学部の喩国明(ユー・クオミン)教授は権利を立法化するよりも人民最高裁が取材、報道の自由は人民の知る権利を保障するものだとの法的見解を出すほうが有効だと主張している。

中国のメディアが「取材する権利の確立」を通じて「市民の知る権利」を意識し始めたことは、最終的には国の政策とぶつかることも想定されという意味を持つ。ノーベル平和賞の劉暁波(リュウ・シャオボ)や北京五輪の鳥の巣をデザインしたアーティスト艾未未(アイ・ウェイウェイ)らが積極的な政府批判の言論活動故に抑圧されているが、それはいつの日かジャーナリズムにも広がる可能性をはらんでいるのではないか、と私は思う。今回のジャーナリスト協会の声明によって、今後の取材、報道の自由をめぐる問題がどう展開するのか注目される。

 

取材倫理確立、権力からの自立も視野に

一方こうした事件が頻発する背景には、中国のメディアに対する不信感もあるというのがCCTVの田薇だ。好意的な記事を書く見返りに紅封筒(わいろ)を受ける記者もいる。他人の腐敗を暴くマスコミ自体の中に腐敗があることを市民はよく知っているため、ジャーナリストの取材活動に冷ややかな目が注がれているのも事実だ。メディア自体の職業倫理確立は一般企業以上に重要だと、彼女は英字紙『グローバルタイムス』のコラムで主張している。特に中国メディアが政府の情報操作をになった時代が終わりつつあり、権力の乱用に歯止めを加えることがメディアに要求されているという田薇の「メディア自立論」の行方を注意深く見守りたい。

 

注、この記事は中国の英字紙、China Daily, Global Times, などの関連記事を参考にしました。また中国語表記については立命館大学文学部大学院、徐如曼さんの協力を得ました。

 

 

posted by media watcher at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 隅井孝雄のメディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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