2009年06月01日

番組批評「お買いもの」(NHK)、「なぜ警告を続けるのか」(毎日放送)

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0907(通算178)
   2009.5.31  
 番組批評「お買いもの」(
NHK)、「なぜ警告を続けるのか」(毎日放送)
  

 6
2日、放送批評懇談会から年間のテレビ優秀番組を表彰する「ギャラクシー賞」が発表される。私は昨年度からこの賞の選考委員を務めているため、これまでになく多くのテレビ番組を、時間をかけて見るようになった。テレビの制作者たちが心血を注いだ番組を見るのは心地よいことだ。テレビも選んで見る、心して見るということになれば優れた番組が実に数多く放送されていることに気づく、というのが私の偽らない実感である。
 私が強く押した二つの番組が入賞した。214日に放送された「お買い物」(NHK)と昨年11月に放送された「なぜ警告を続けるか」(毎日放送)である。 以下に月刊誌「ギャラック」に掲載された「お買い物」と「なぜ警告を続けるか」の番組批評をそのまま掲載する。

 「お買いもの」 NHK 214日放送 
 銀座のカメラ店の店主と店員の会話が年寄りの旅の結末を暗示、絶妙なプロローグである。芝居ならこれがいわば幕前で、カーテンが上がると田舎の茶の間の老夫婦。久米明と渡辺美佐子が演じる夫婦の会話が絶妙だ。特に久米の老人特有の言葉使いがリアルに響く。
 シンプルなカメラワークが会津の田舎の風景をきわめて現実的なものとして描き出してくれる。そして効果的に挿入されるチェロとピアノのこれもシンプルな音楽が久米明の足取りをゆったり伝える。
 カメラ屋のDMが老人の心を揺さぶった。かくして赤いジャンパー姿の久米は渡辺を伴っていざ渋谷へ。だんだんしっかりしていく久米の変化がセリフまわしにうまく出ている。
 電車のなかでの切符騒動、初めて見るケータイ改札、スタバでのコーヒー選び、孫のアパートでのラザニアなど、一つ一つのエピソードがそれなりにディーテイルを伴って現代社会の断面になっているようだ。
 矯めつ眇めつ、迷いに迷って手にしたカメラを持って再び渋谷の街へ。迎えにきた孫娘とその彼氏との会話もまた極めて自然体で進行する。時代遅れだがかつては高級だったフィルムカメラと、人生の思い出の波長がうまくシンクロしている。
 幕切れの縁側のシーンが全体の流れから見ると説明的だったのが気にかかる。
 最近ゆったり進行するドラマ、セリフ、映像を丁寧に積み重ねるドラマが増えたような気がする。テレビのごく初期に舞台劇の延長のような読み切りドラマが繁栄したが、50年、60年のサイクルでそれがまた戻ってくる気配がある。NHKがその先鞭をつけているようだが、民放でも地方局の周年ドラマなどに時折その手の作品を見かける。
 脚本の前田司郎は初めて聞く名だが筆は確かだ。聞けば演劇の経験が豊富で岸田国士賞も得ているという。彼のような新鮮な才能を持つ練達の脚本家がテレビの世界で活躍してくれることは嬉しい。
 中島由貴の演出も会話やカメラワークにドラマとしての気配りが行き届いていた。
(隅井孝雄、「ギャラック」(2009年5月号より)
 注、前田司郎は513日「夏の水の半漁人」で三島由紀夫賞を受賞した。  

 なぜ警告を続けるか、京大原子力実験所異端の研究者たち
 毎日放送、映像08 20081020放送 
 個人的な話だが京都での私の知人に安斎郁郎先生という人がいる。国際平和ミュージアムの名誉館長として核廃絶など平和問題でのリーダー的存在である。20063月彼は立命館大学退職記念に際し「生き越し方を振り返って」と題する講義を行ったが、そこで私は安斎先生がもともとは原子炉研究の専門家であり、東大医学部放射線教室の助手を17年続けたという経歴を知った。原子力の安全性についての発言や行動により、危険人物視され、尾行も付いたという。
 1020日深夜放送された毎日放送のこの番組を見て、同じことがまだ続いているように見えるが、日本は原子力エネルギーについて考えるべき新たな地平にいることを改めて知った。歴史はらせん状に変化する。
 大阪府熊取町に白いドームの京都大学原子炉実験所がある。この実験所で28年間100回にわたる勉強会「原子力安全ゼミ」が開かれている。小出裕章さん、今中哲二さん、そしてすでに退職した4人の科学者たちは「原子炉の安全性」ではなく「危険性」を訴え続けてきた。原子炉反対訴訟で証人に立ち、しばしば国側の証人(多くが東大教授であった)、を立ち往生させたことを番組は伝える。
 高速増殖炉もんじゅや、六ヶ所村再処理工場がストップしたままである。柏崎原発を引き合いに出すまでもなく、国の原発行政が破綻している。助手あるいは助教という差別的身分のままで研究を続け発言を続けている彼らこそは「異端」ではなく「正統」であるべきことを時代が要求している。
 小出さんたちはクーラーを消し、電気を消し、原発に依存しない新しいライフスタイルを提唱している。
 アカデミズムの立場でいえば、京大と東大では国家権力との距離に違いがあることもくみ取れた。この番組は東京では放送されていない。最近報道ドキュメンタリーが見直されている今、毎日放送の映像08を是非とも全国放送に取り上げてもらいたいものだ。
 隅井孝雄、「ギャラック」(20091月号より)
posted by media watcher at 01:02| Comment(0) | 隅井孝雄のメディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
Media watch.gif

隅井孝雄のメディア・ウォッチブログ