2008年12月09日

アメリカ大統領選挙とテレビ、オバマは「視聴率男」

 隅井孝雄のメディアウオッチ
  No. 0809(
通算169)
2008.12.10 
 アメリカ大統領選挙とテレビ、オバマは「視聴率男」

  選挙直前、7局のテレビを独占
 いささか旧聞に属するが、大統領選投票日を目前にした1029日、オバマ陣営は7つのテレビテレビネットワークから30分の放送枠を買い取り、直接アメリカ国民に自らの政策や信条を訴えた。買い取り金額は400万ドル、39000円以上だという。PRのための放送枠を買い取る方式はアメリカではインフォマーシャルと呼ばれていて、30秒前後のテレビコマーシャルとは区別する。
 折からおこなわれていたワールドシリーズ第5戦はこの日に限って午後830分からの放送だった。これはテレビが8時から8時半をオバマ番組に振り分けたからである。視聴者や野球ファンからの苦情はなく、7チャンネルを合計した視聴者数は3300万人にも上った。ワールドシリーズの直前だったことも視聴率を上げる要因となったとみられる。 
 番組では主に中間層、低所得層に焦点を絞って経済政策を訴える一方、自らの生い立ちと重ねて家族の大切さを訴えた。また彼を支持する退役軍人や、企業経営者も登場した。そして最後に、フロリダで演説中のオバマ候補の姿を生中継し、観客の熱狂ぶりを、臨場感をもって伝えるという、極めて手慣れた効果的な手法で番組を締めくくった。
 態度を決めかねている無党派層に強く訴える内容だったと、メディアや選挙の専門家も見ており、この番組が投票行動に強烈な影響をあたえたといえよう。 
 放送した局はネットワークテレビの
CBS, NBC, Fox, ケーブニュースのCNBCケーブルと衛星経由でのスペイン語チャンネルUnivision、それに二つのケーブル黒人向けチャンネルBET, TV Oneであった。ABCCNNはオバマ陣営から打診されたが放送を見送ったという。
 大統領選のインフォマーシャルとしては1992年、独立候補に名乗りを上げた企業家ロス・ペローがテレビやケーブルを通じて演説を15回放送したが、視聴者は合計1150万人であった。  

 今回の選挙ほどテレビが活躍したことはない。

 1015日の最終大統領候補テレビ討論は5650万人を記録したが、その他の重要キャンペーンでも記録的な視聴者数だった。828日民主党大会でのオバマ指名受諾スピーチ、3840万人、93日共和党大会でのペイリンスピーチ、95日のマケインスピーチがそれぞれ3720万人、3890万人などの数字が出ている。さらに114日のシカゴでのオバマ勝利演説は14のチャンネルから全国放送され累計7858万人の視聴者をテレビの前にくぎ付けした。北京オリンピック開会式3420万人、アカデミー賞授賞式3160万人という数字と比べても、今回の大統領選がいかに広範なアメリカ国民の関心を引き付けたかがうかがえる。(視聴者数はいずれもニールセンの集計、アメリカでは個人視聴率が完備しているため、視聴率ではなく視聴者数で発表される)

 単体のテレビネットワークでみても、ネットワークが競ってプライムタイム放送した828日オバマの党大会受諾演説を含む民主党大会中継はCNN810 万人、オバマに焦点を合わせ10時から中継に入ったネットワークではNBC 610万人、ABC658万人といずれも前の週の番組枠視聴者を大きく超えた。CBSだけは472万人とレギュラー枠「CSI科学捜査班」の前の週の視聴者546万人を下回った。ちなみにPBSでも通常の18%増、330万人を獲得している。
 さらに大統領選で勝利した後、CBSテレビの報道番組60ミニッツは独占インタビューを行ったが、その平均視聴者数2510万人はこの番組が1999年に出した視聴率記録を9年ぶりに更新したものであり、今年度のすべてのプライムタイムテレビ番組の中で“最も多い視聴者”を獲得するという栄誉に輝いた。
 このような状況について、アメリカの芸能専門誌「Variety」は「オバマは視聴率男だ」と報じた。

 

 オープラ人気はオバマにとって決定打 
 オバマは多くの有名人の支持を受けたが、著名なテレビ司会者オープラ・ウインフリーの存在を忘れるわけにはいない。オープラのオバマ支持は、予備選の時、彼女の番組にオバマをゲストとして呼んだことから始まった。テレビ界のファーストレディーといわれるオープラ・ウインフリー、シンジケートの「オープラ・ウインフリー・ショー」をシカゴのスタジオから月金で放送、主婦層の間に絶大な人気がある。
 この番組は数あるトークショーの中で最高視聴率、オープラはテレビタレントの中でも最高の金持ちというのに止まらない。彼女が番組で推薦する商品、オープラブッククラブが番組で紹介する本は瞬く間に売れつくしてしまう。それも俗な大衆本ではない。ABCテレビによるとたとえば最近推薦図書に取り上げたトルストイの小説「アンナ・カレーニナ」の売り上げは5421%も上昇、書店の棚から一晩で消えた。
 メリーランド大学の研究者はオープラの人気が投票にどのくらい影響したかを研究、少なくとも100万票に達するとして、オープラ抜きであったなら民主党の大統領候補はクリントンだったと結論付けた。
 アメリカ国民はほぼ10ヶ月間にわたってテレビCM、候補者のスピーチや討論、関連するテレビ報道で、候補者の人格、政策、決断力などを判断し、114日の投票に向かったとみられる。
 私の結論はこうだ。アメリカの市民は、最初はクリントンとオバマを、後半はマケインとオバマをテレビでじっくり見つめ、演説や政策に注意深く耳を傾け、だれに投票するかを決めた。黒人候補であるオバマに本当に投票しても大丈夫なのか、アメリカの市民の多くは迷いに迷って最後に判断したはずだ。その意味でテレビは依然として社会に大きな影響力を持っている、と。

(次回はアメリカ大統領選とテレビコマーシャル)

posted by media watcher at 22:59| Comment(0) | 隅井孝雄のメディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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