2019年09月20日

中止された「表現の不自由展・その後」、テロの脅迫受けて, 表現の自由に対する侵害、深刻さ増す  隅井孝雄

1909 慰安婦像IMG_5013.JPG1909 会場展示IMG_5014.JPG1909 津田大介IMG_5015.JPG
 8月1日から開催されていた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」がわずか3日で中止された。
テロ、脅迫が中止理由とされた
 この展覧会は、日本の公共文化施設で、表現する機会を奪われた作品を集めた2015年の展覧会の出品作に、その後展示が拒否されたり、撤去された作品を加えて愛知芸術文化センターで開催されていた。しかし開催直前から直後にかけて、「ガソリン缶をもってお邪魔します」などテロの予告、脅迫のメールが開催事務局やトリエンナーレ主催の愛知県に多数寄せられたことから、芸術祭の実行委員会会長である大村秀章愛知県知事が、8月3日夕、記者会見で中止を発表した。事務局への電話、メールなどによる抗議や脅迫は8月2日までに1千件以上に達した、と大村知事は語った。
 展示の内容は?
 展覧会にはキム・ウンソン、キム・ソギョン夫妻制作の慰安婦像として知られる「平和の少女像」、公民館での展示を拒否された「9条俳句」、昭和天皇の肖像をモチーフにした大浦信之さんの版画「遠近を抱えて」(展示の後、問題作とされ画集が美術館の手で焼却処分された)、横尾忠則さんのラッピング電車(脱線事故を連想させるといわれ公開が阻まれた)、米軍基地を描く「落米の恐れあり」(岡本光博さんの作品、沖縄伊計島の商店シャッターに描かれたが、地元自治体の反対で非公開となった)など、19組の作家の作品が展示されていた。
 展示続けるべき、中止に抗議の声続々
企画展を「視察」の訪れた河村たかし名古屋市長は、「日本の国民を踏みにじる展示だ、即刻中止を求める」と語った(8/2)。国際芸術祭全体の実行委員長である大村秀章愛知県知事は3日の会見で「ガソリン持っていくというファックスの他事務局へのメール、電話の抗議、脅迫が殺到、危険性が高まったため芸術祭全体の安全のために中止を決めた」と語った。
 これに対して、日本ペンクラブは8月3日「展示は続けられるべき」だとの声明を出した。特に「平和の少女像」などに対し、河村名古屋市長が中止を求め、菅義偉官房長官が補助金差し止めを示唆したことなどは、政治的圧力に止まらず、憲法が禁じる「検閲」だと批判した。
 また8月7日には国会内で市民、芸術家、メディア関係者150人による緊急集会が開催された。呼びかけ人の一人である田島康彦さん(元上智大教授)は「公権力が許す範囲内の枠内に言論の自由を留めようという流れがある。その動きに連動したテロ予告や脅迫が、更に規制や統制を厳しくしている」と述べた。また慰安婦像が標的にされたことについて、「排外主義が進んでいる、かつての日中戦争前の状況と似ている」(荻野富士夫小樽商大名誉教授)との意見も出た。造形作家の中垣克久さんは「ひとりの作家の同意もなく一方的に中止された」との怒りを表明した。
 「不自由展」に出品していた海外アーティストたちは「表現の自由を守る」との声明を出し、自分たち作品の展示を引き上げると実行委員会に申し出た。
 中止された会場の前では4日以降、「表現の自由を守れ」などのプラカードを掲げた市民有志のスタンディングが連日続いている。
 8月22日には東京都内で「中止事件を考える」緊急シンポジウムが開催され立錐の余地なく500人を超える市民が詰めかけた。出展していた作家、慰安婦の写真を多く撮影した写真家アン・セホンさん、「マネキンフラッシュモブ」(マネキンのように体の動きを止める)の朝倉優子さん、「遠近を抱えて」の大村信之さんらが多数登壇、作品をスライドで映写しながら必ずしも政治的とは限らない制作の意図を紹介。第2部では金平茂紀さん(TVジャーナリスト)、森達也さん(監督)、鈴木邦夫さん(元一水会顧問)、香山リカさん(精神科医)、綿井健司さん(ジャーナリスト)らが表現を巡る現状について、意見交換した。
 有識者検証委設置、
 愛知県の大村知事は企画展中止を検証する有識者委員会を設置、更に9月に「表現の自由に関する国内フォーラム」、10月に「表現の自由に関する国際フォーラム」を開催すると発表した(8月23日)
 あいちトリエンナーレ芸術監督の津田大介さんはインタビューの中で「残りの会期で表現の自由とは何かを示したい。最後まで作家たちと共に議論を続けたい」と語っている(8/12朝日新聞)。また外国特派員協会での記者会見で、津田さんは「検証委員会の中間報告を踏まえるべきだ」とのべるとともに、「脅迫メールに対する捜査の進展」、「会場の警備体制の強化」、「電話抗議・脅迫への対策」などの問題を解決する必要があるとの認識を表明した(9/3朝日新聞)。自由に表現することができにくい日本になっているという現状にあることを示している。
 今回の中止によって出展した作家たちの表現の自由は二度にわたって侵害されたことになる。(隅井孝雄、ジャーナリスト 2019.9)
写真 19年8月5日 報道ステーション(テレ朝)より

NHK・メディアを考える京都の会 会報 No.46 原稿 2019年9月19日
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