2009年06月23日

揺れるNHKその2 「坂の上の雲」への批判の動き、日露戦争の歴史観をめぐって

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0910(通算181)
 2009.6.23 
 揺れるNHKその2 「坂の上の雲」への批判の動き、日露戦争の歴史観をめぐって

 

舞鶴ロケ始まる

 NHKが鳴り物入りで宣伝している「坂の上の雲」のロケが本格化し、放送日も200911月に決まった。615日の京都府舞鶴ロケでは、海軍大臣山本権兵衛(石坂浩二)が軍港舞鶴を訪ねるシーンが撮影された。鎮守府長官東郷平八郎(渡哲也)に会うためである。舞鶴には明治時代の赤煉瓦街が残っているのに加え、鎮守府長官官邸も残っている。この訪問で山本権兵衛は東郷に連合艦隊の司令長官抜擢することを告げる。また京都市内の府庁本館も明治時代の建造物としてロケに使われた。

 

 番組批判のシンポジウム718

 ところがそのおひざ元の京都718NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲を考える」というシンポジウムが開かれる。奈良女子大学名誉教授の中塚明氏の講演とパネル討論という内容だ。中塚教授は歴史家の立場から司馬遼太郎の「明治栄光論」を批判する論文を書いている。「日本は日清、日露戦争を経て世界の大国の仲間入りをした。それは日本の朝鮮支配と表裏一体の関係にある」(前衛20096月号、NHK坂の上の雲を問う)というのが彼の立論だ。

 NHKはこの番組の企画意図として「明治時代のエネルギーと苦悩をドラマとして描き、現代日本人に勇気と示唆を与えるものとしたい」、「(明治は)新たな価値観の創造に苦悩、奮闘した時代だった。この作品のメッセージは日本のこれから向かうべき道のヒントを与えてくれる」と広報資料に書いている。このような史観に異論が出るというのもまた当然だと思う。

 

司馬本人が望まなかったテレビ化、映画化

「坂の上の雲」は第一部が200911月から12月にかけて5回放送、続いて2010年秋に第二部4話が、2011年秋に第三部4話が放送される。3年がかりで13話という壮大なスペシャルドラマである。

 しかし企画段階から茨の道を歩んだ。2000年頃企画が出されたようだが、司馬家の許諾が難航した後、脚本家の選定も困難を極めたと伝えられる。結局当時映画「破線のマリス」、フジテレビ「水曜日の情事」など話題作を次々に発表していた野沢尚が引き受けたが、2004年彼が自殺して暗礁に乗りあげた。今回はほぼ野沢脚本を生かす形で池端俊策、岡崎栄の監修による構成台本があがり、20071月ようやく制作発表にこぎつけた。

 司馬遼太郎側の放送権に許諾が遅れた背景には次のような事実がある。司馬遼太郎自身が映画化、テレビ化を望んでいなかったからだ。1986521日放送のNHKETV8」の中で本人が次のように語っている。

「坂の上の雲はなるべく映画とかテレビなど視覚的なものに翻訳されたくない作品であります。うっかり翻訳するとミリタリズムを鼓吹しているように誤解される恐れがありますからネ」この発言は1998年にNHK出版が出した「昭和という国家」の中にも採録されて残っている。

 

どこへ行くのか大型企画「プロジェクトJapan

実は「坂の上の雲」はNHKが総力を挙げて取り組むという「プロジェクトJapan 企画の一環である。それについてNHKホームページでは次のように述べている。

2009年は「横浜開港150年」、2010年は「韓国併合100年」、2011年は「太平洋戦争開戦70年」、「サンフランシスコ講和条約60年」。近現代史の大きな節目の3年間「坂の上の雲」、NHKスペシャル、プロジェクト関連番組を多角的に展開し、これからの日本を考える大いなるヒントとしたい。

しかしその入口でNHKスペシャル「アジアの一等国」が右翼の抗議にさらされる一方、秋に登場する「坂の上の雲」もまた別の角度からの批判が待ち構えている。

私は一連の企画はNHKの制作者たちが議論を積み重ねた結果世に問う一大プロジェクトだと理解し、積極的なものとして受け止めている。ただ「坂の上の雲」は企画全体とはズレがあるように思えるのだが、第一部のクライマックスで日清戦争をどのように描くのか興味がある。

いずれにせよNHKの制作者たちは、さまざまな思惑を超えて番組の内容で真剣勝負してほしいと願うのみである。

 

「プロジェクトJapan」のホームページ

http://www.nhk.or.jp/japan/

「坂の上の雲のホームページ」

http://www.nhk.or.jp/japan/sakanouenokumo/index.html

 
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2009年06月21日

揺れるNHKその1 台湾植民地化の歴史認識が争点、抗議の嵐吹き荒れる

隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0909(通算180)
2009.6.21 
揺れるNHKその1 台湾植民地化の歴史認識が争点、抗議の嵐吹き荒れる 


 NHK
が揺れている。きっかけはNHKが始めた「Japanデビュー」の第一回として放送された「NHKスペシャル、アジアの一等国」(45日放送)。台湾を植民地にし、皇民化政策を推し進めたことがテーマだった。この番組に対してNHKの自虐史観だ、売国放送だとの批判の大合唱が起きているのだ。

毎日新聞によると611日、この番組が偏向しているなどとして、自民党国会議員有志が「公共放送のあり方を考える議員の会」を開いたという。設立総会には安倍晋三、中川昭一氏ら60人が出席した。「歴史教育を考える議員の会」(会長中山成彬氏)もNHKに質問書を出した、と報道している。事実なら、またか、といいたい。

スカパーにある日本文化チャンネル桜(219)ではNHKの偏向問題として、ニュースで大々的に取り上げ、桜井よし子さんの講演なども録画中継している。そして番組やホームページNHKの抗議する国民大運動を627日に全国展開すると呼びかけている。ちなみに「チャンネル桜は」日本人の心を取り戻すチャンネルだと説明されている。ニュースワイドが中心だが、番組の中には「田母神塾」(月曜)、「自衛隊スペシャル」(土)「防人の道、今日の自衛隊」(月金)などがある。一日4時間の放送だ。

612日に公表された5月度のNHK経営委員会では小林英明委員(弁護士)から「放送法上問題になる部分がある」との発言があった。経営委員会で番組の是非が論じられることは極めて異例だ。

このような状況の中で617NHKはこの番組のホームページに批判への反論を掲載した。アドレスは次の通り。http://www.nhk.or.jp/japan/pdf/asia.pdf 一読されたい。
 ところでこれに追い打ちをかけるように613NHKがニュース7で放送した満蒙開拓団のニュースにも抗議が殺到している。このニュースは羽田澄子監督が制作した「嗚呼満蒙開拓団」という映画の試写が岩波ホールで行われたという単純なニュースだ。映画そのものは羽田監督が満蒙開拓団の生き残りの人々にインタビューを重ねた記録である。抗議の多くは、「開拓団の数十万の犠牲は、八路軍とソ連軍のせいだ」というやや見当違いなもののようだ。 従軍慰安婦を扱った2001年のETV特集改変問題の余燼はくすぶったままだ。今回の抗議の嵐をどのようにNHKは乗り切るのだろうか。
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2009年06月05日

アメリカ新聞協会(NAA)がニューヨークタイムスに意見広告  新聞は元気だ?????? 七つの疑問に答える

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0908(通算179)2009.6.4 

 アメリカ新聞協会(NAA)がニューヨークタイムスに意見広告
 新聞は元気だ?????? 七つの疑問に答える 


  私のフログでアメリカの新聞危機が続いていると何回か書いたが、最近ニューヨークタイムス紙上に、アメリカ新聞協会の全面広告がのった。

掲載されたのは522日付の「ニューヨークタイムス」。その全国ニュースページの20ページ目だ。一連の新聞危機報道に対して、新聞協会(NAA)のジョン・F・スターン会長が「新聞についてのリアリティ―」と題して反論している。

 「ここ2年来かつてない経済的困難に直面、さらにアメリカ経済のメルトダウンで広告不況という打撃を受けた。しかし印刷であろうとデジタルであろうと新聞メディアはしっかりとした基盤を持っている。さらにマルチメディアプラットフォーム力でさらに強さを持つメディアになる」、と述べた後、7項目の質問に答えている。

 「読まれていないのでは」に対しては、読者は毎日1400万(日曜11500万)、スパーボウル(9400万)よりも、アメリカンアイドル(2300万)よりも、テレビニュース(6500万)よりも多い数字だ、と反論する。

 「若者が読んでいないのでは?」、1週間に若い世代(16歳から34歳)の65%が新聞を見るか新聞のウエッブサイトを訪れている、「読者が減っているのでは?」、2007から2008の落ち込みは1.8% に止まる、2004比較でテレビ視聴者は10%減ったが新聞は7%だ。新聞のウエッブ読者は2004年比で75%増えて、月間ビジターは7300万人に達した、と数字を上げて健在ぶりを強調している。

 「新聞事業はなりたたないのでは」という意見に対しては、いやそんなことはない、以前より落ちたとはいえ経営基盤は健全だという、「ジャーナリズムレビュー」誌の記事を援用した。広告についてはグーグルの調査データーを使って、新聞を見て商品を購入する人は56%に達すると紹介、また新聞広告はデーターベース・マーケッティング、行動ターゲティングなど新しい広告の開発を行い、これまでになかった、スキャン広告。蛍光広告などなど、新広告手法も次々に生みだしていると自賛している。

 締めくくりは「新聞がなくなったら?」。ここでは新聞が様々なメディアのニュースソースになっているし、ブロッグやテレビと比較し記事の深さや広さは他の追従を許さない、決して他のメディアは新聞にとって代わるものではないと説明した。

 新聞は変化しつつあり、あらゆるメディアを統合した情報手段であり、広告手段だというのが結論。

 

 この広告は新聞がネットを取り込んで領域を拡大しつつあるという趣旨のように聞こえるが、配達される紙の新聞としての命運についてはほとんど語っていない。

 NAAの調べによると2009年の第1四半期の広告収入の落ち込みは前年同期比−29.7%に達し収入は59億j(07年同期98.4億ドル)に止まったということだ。まるで自動車産業並みの落ち込みである。注目されるのはこれまで増勢を続けてきたインターネットからの広告収入も、2008年4月以降減りはじめ、09年第1四半期では前期比−13.4%6 9000万jに止まった。

 新聞は依然としてジャーナリズムの雄であり、基幹的メディアだと私は思う。新聞がなくなればテレビやインターネットも基本的情報ソースを失うことになる。新聞を核としてジャーナリズムが健全さを保つということは民主主義社会にとって欠かせないものだ。

 世界的経済不況の波を受ける新聞産業は、苦闘の中で活路を切り開いてほしいと思うが、今のところその決め手は見つかっていないのが現実だ。

 

 

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2009年06月01日

番組批評「お買いもの」(NHK)、「なぜ警告を続けるのか」(毎日放送)

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0907(通算178)
   2009.5.31  
 番組批評「お買いもの」(
NHK)、「なぜ警告を続けるのか」(毎日放送)
  

 6
2日、放送批評懇談会から年間のテレビ優秀番組を表彰する「ギャラクシー賞」が発表される。私は昨年度からこの賞の選考委員を務めているため、これまでになく多くのテレビ番組を、時間をかけて見るようになった。テレビの制作者たちが心血を注いだ番組を見るのは心地よいことだ。テレビも選んで見る、心して見るということになれば優れた番組が実に数多く放送されていることに気づく、というのが私の偽らない実感である。
 私が強く押した二つの番組が入賞した。214日に放送された「お買い物」(NHK)と昨年11月に放送された「なぜ警告を続けるか」(毎日放送)である。 以下に月刊誌「ギャラック」に掲載された「お買い物」と「なぜ警告を続けるか」の番組批評をそのまま掲載する。

 「お買いもの」 NHK 214日放送 
 銀座のカメラ店の店主と店員の会話が年寄りの旅の結末を暗示、絶妙なプロローグである。芝居ならこれがいわば幕前で、カーテンが上がると田舎の茶の間の老夫婦。久米明と渡辺美佐子が演じる夫婦の会話が絶妙だ。特に久米の老人特有の言葉使いがリアルに響く。
 シンプルなカメラワークが会津の田舎の風景をきわめて現実的なものとして描き出してくれる。そして効果的に挿入されるチェロとピアノのこれもシンプルな音楽が久米明の足取りをゆったり伝える。
 カメラ屋のDMが老人の心を揺さぶった。かくして赤いジャンパー姿の久米は渡辺を伴っていざ渋谷へ。だんだんしっかりしていく久米の変化がセリフまわしにうまく出ている。
 電車のなかでの切符騒動、初めて見るケータイ改札、スタバでのコーヒー選び、孫のアパートでのラザニアなど、一つ一つのエピソードがそれなりにディーテイルを伴って現代社会の断面になっているようだ。
 矯めつ眇めつ、迷いに迷って手にしたカメラを持って再び渋谷の街へ。迎えにきた孫娘とその彼氏との会話もまた極めて自然体で進行する。時代遅れだがかつては高級だったフィルムカメラと、人生の思い出の波長がうまくシンクロしている。
 幕切れの縁側のシーンが全体の流れから見ると説明的だったのが気にかかる。
 最近ゆったり進行するドラマ、セリフ、映像を丁寧に積み重ねるドラマが増えたような気がする。テレビのごく初期に舞台劇の延長のような読み切りドラマが繁栄したが、50年、60年のサイクルでそれがまた戻ってくる気配がある。NHKがその先鞭をつけているようだが、民放でも地方局の周年ドラマなどに時折その手の作品を見かける。
 脚本の前田司郎は初めて聞く名だが筆は確かだ。聞けば演劇の経験が豊富で岸田国士賞も得ているという。彼のような新鮮な才能を持つ練達の脚本家がテレビの世界で活躍してくれることは嬉しい。
 中島由貴の演出も会話やカメラワークにドラマとしての気配りが行き届いていた。
(隅井孝雄、「ギャラック」(2009年5月号より)
 注、前田司郎は513日「夏の水の半漁人」で三島由紀夫賞を受賞した。  

 なぜ警告を続けるか、京大原子力実験所異端の研究者たち
 毎日放送、映像08 20081020放送 
 個人的な話だが京都での私の知人に安斎郁郎先生という人がいる。国際平和ミュージアムの名誉館長として核廃絶など平和問題でのリーダー的存在である。20063月彼は立命館大学退職記念に際し「生き越し方を振り返って」と題する講義を行ったが、そこで私は安斎先生がもともとは原子炉研究の専門家であり、東大医学部放射線教室の助手を17年続けたという経歴を知った。原子力の安全性についての発言や行動により、危険人物視され、尾行も付いたという。
 1020日深夜放送された毎日放送のこの番組を見て、同じことがまだ続いているように見えるが、日本は原子力エネルギーについて考えるべき新たな地平にいることを改めて知った。歴史はらせん状に変化する。
 大阪府熊取町に白いドームの京都大学原子炉実験所がある。この実験所で28年間100回にわたる勉強会「原子力安全ゼミ」が開かれている。小出裕章さん、今中哲二さん、そしてすでに退職した4人の科学者たちは「原子炉の安全性」ではなく「危険性」を訴え続けてきた。原子炉反対訴訟で証人に立ち、しばしば国側の証人(多くが東大教授であった)、を立ち往生させたことを番組は伝える。
 高速増殖炉もんじゅや、六ヶ所村再処理工場がストップしたままである。柏崎原発を引き合いに出すまでもなく、国の原発行政が破綻している。助手あるいは助教という差別的身分のままで研究を続け発言を続けている彼らこそは「異端」ではなく「正統」であるべきことを時代が要求している。
 小出さんたちはクーラーを消し、電気を消し、原発に依存しない新しいライフスタイルを提唱している。
 アカデミズムの立場でいえば、京大と東大では国家権力との距離に違いがあることもくみ取れた。この番組は東京では放送されていない。最近報道ドキュメンタリーが見直されている今、毎日放送の映像08を是非とも全国放送に取り上げてもらいたいものだ。
 隅井孝雄、「ギャラック」(20091月号より)
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2009年03月27日

危ういインターネット情報源、 ウエブ上のネタサイト、バンキシャ事件で明るみに

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0906(通算177)
 2009.3.27  危ういインターネット情報源、ウエブ上のネタサイト、バンキシャ事件で明るみに 


 応募ネットサイトが情報源だった

日本テレビ「真相報道バンキシャ」の偽造証言事件が新たな展開となった。

この事件は番組内で発言した「岐阜県庁に裏金」という証言が真っ赤なウソだったというもので、出演した蒲保広容疑者は偽計業務妨害で岐阜県警に逮捕された。

日本テレビの調査によると蒲保広容疑者はインターネットサイトで番組に応募し、20053月にもバイアグラの体験者として「バンキシャ」に出演しているという。今回は謝礼を出していないが、2005年には一万円と交通費を得ている。この経緯は324日の番組審議会で報告された。一方日本テレビだけではなく、テレビ朝日も2005年にスーパーモーニングに2回出演、一万円の謝礼を受け取っていると公表した。

どうやらインターネットによるネタ提供の常連らしい。

 今回の場合、蒲容疑者に謝礼は払われていないというのが日本テレビの説明だが、通常ネタサイトに対してテレビ局が情報募集料として一件3万円程度支払うことが慣行となっている。番記者がどのネタサイトに接触したのか、どのような形で支払いをしているかどうかも明らかにする必要があるだろう。またインチキネタが報道、情報番組で流されている可能性もあり、民放連として調査するとともにインターネット情報源利用基準の確立も望まれる。

 

 隆盛極めるネタサイト

 民放テレビには数多くの報道番組、情報番組が林立しているが、多くの番組がインターネット経由で情報を収集しており、テレビ局相手のいわゆる「ネタサイト」が隆盛を極めている。

 もともとは「情報をお寄せください」という形で番組が直接視聴者にメール情報を送ってもらうルートをネット上に開くというのが定番だ。たとえばTBS「サンデーモーニング」の場合ホームページの中に「ご意見&ネタ募集」という案内があり、視聴者がメールで情報を寄せてくれば、早速接触し、取材、裏付けを行って番組に取り上げる仕組みだ。

しかし2005年頃からこうした情報提供がインターネット上のビジネスとなった。会員が20万人いるとうたう最大手のメディアパークの場合、サイトを開くとテレビ局や雑誌社が募集をかけているネタの一覧が締切日順にずらりと並んで出てくる。いわく「壮絶浮気バトル体験者」、「防犯プロ伝授します」、「カーネルサンダースが道頓堀川に沈んだ日目撃者」、「給与明細を見せていただける方」、「東京で派遣切りにあわれた方」・・・・。そして募集掲載料3万円と明記してある。

https://user.mediapark.jp/visitor/static/gEvent/service

 

アメリカでは、HARPOの場合

この手の情報提供はSNSなど情報交換サイトが盛んなアメリカが先輩格だ。ヘルプ・ア・レポーターズ・アウトHarpoは一種のメーリングリストで、会員登録をするのだが、日本の場合とは違い一切無料だ。私もフリージャーナリストとして登録しているが、調べたい項目を入力すると、関連する情報を会員から集めてメールしてくる。日本との最も大きい違いはあくまでの個人の記者をサポートするという考え方に基づいたウェッブ運営であることだ。このサイトの運営責任者はPRコンサルタントのピーター・シャンクマン。もともとはSNS情報交換ページとしてスタートしたが、メディアからの要望が多く、専門ページとした。財源はウエブページに掲載する広告収入である。登録者は5万人に上る。

このようなレポーター向け専門サイトのほか、SNSやブログにもメディアへの情報提供を目的としたものが多数あり、メディアの側でも専門的にウエブ・ウォッチ体制をとっている。APでは重要な情報をウエブ上で見つけると、ウエブアラートをメディアに向けて発信するのが慣例となっているほどだ。編集局内でブザーが鳴り、赤ランプが点滅し、記者が一斉に取材に走る。ドラッジ・レポートが報じたモニカ・ルインスキー事件の発端がそうだった。

アメリカではデーターベースで情報を探すだけだと、情報源に偏りが出るため、複数のメディアに同じ人物のコメントが出ることがよくある。広く一般の市民からの情報提供を主体としたHARPOが重宝される理由の一端もそこにある。

こうした新しい形での情報ソースについてアメリカでは情報源に直接当たりなおして正確性を期すことが当たり前にとなっているが、インターネット情報の扱いについて何らかのガイドラインが必要だという声も最近とみに強まっているという。

http://www.helpareporter.com/

 

日本の場合個人情報保護法が施行された2005年以降、インターネット情報に頼る取材が増えたといわれている。最初はもっぱらワイドショー、情報番組だったが、最近では正規軍である、ニュース報道、報道番組でも無視できない情報源ともなっている。さらに朝日新聞など大手新聞メディアも活用するようになった。

今回の日本テレビ偽造証言事件の経験を踏まえ、インターネット取材源利用のガイドラインを早急に策定することが必要だと私は思う、

 
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2009年03月19日

紙からネットへ転換、新聞業界が注目 「シアトルインテリジェンサー」新聞発刊を停止、WEB新聞に全面移行

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0905(通算176)
 2009.3.19 

 紙からネットへ転換、新聞業界が注目
「シアトルインテリジェンサー」新聞発刊を停止、WEB新聞に全面移行  
           
 先日のブログで、「アメリカでは新聞が果たして紙という媒体のまま生き残れるのか、それとも電子媒体への転身を図ることになるのか、その行き先はまだ定まってはいない」、と書いた。
 ところが317日、シアトルポストインテリジェンサー(シアトルPI)という名門紙が、新聞発行を停止し、インターネットに全面移行することになった。
 シアトルPI紙はシアトルの人口が150人にすぎなかった南北戦争のころ発刊され146年の歴史を持つ名門紙で、ハーストグループの傘下にあった。地元ではPI(ピー・アイ)という愛称で親しまれてきた。シアトルPIのデイヴィッド・マカンバー編集長はインタビューに答えて「紙の新聞は発行しないがインターネット上のWEB新聞に転換する。価値がなくなるということではない」、と語った。
 シアトルPIの親会社であるハーストグループはもとより全米の新聞経営者がこの実験的試みに注目している。新しいビジネスモデルとして軌道に乗るかどうかが問われているからだ。
 シアトルPIは記者、従業員を165人削減しで20人のスタッフで再出発する。自前の記事もあるがコメンタリー、アドバイス、他のニュースサイトのリンクが大幅に増える。また元市長、元警察長官、元公立学校長などをウエッブサイトのコラムニストとして新たに契約、ふんだんに地元の記事を盛り込むという。
 これまで
5年間シアトルPIのウエブサイトのエディターだったマイケル・ニコロシーが新しい編集長に就任した。
 シアトルにはシアトルタイムスとシアトルPIの二紙があったが、印刷やマーケティングをシアトルPI共同で行ってきたシアトルタイムスはパートナーを失って厳しい状況に立たされることになった。またアメリカ北西部一帯でウエッブニュースを展開しているシアトル本拠の非営利サイトCrosscut.comも新しい競争に立たされることになった。
 シアトルPI2000年以降赤字が続き、2008年には1400万jの赤字を計上、ハーストグループ本社が買い手を探していたが見つからず、今回の停刊に至ったものである。
 このニュースを報じたABCテレビは「株価が連日上昇に転じている中、新聞産業の危機のニュースだけは止まらない」とコメントしている。
 日本の新聞経営はまだ安泰とみられている。それは宅配制度や再販価格維持制度に守られてのことだが、新聞が読まれなくなっていることは事実だ。特に若い世代はほとんど読まない。早晩新しいビジネスモデルに転換する必要に迫られるのではないか。
 参考
 シアトルPIのウエッブサイト
 http://www.seattlepi.com/ 
 NYTの記事 
 http://www.nytimes.com/2009/03/17/business/media/17paper.html?th&emc=th
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2009年03月13日

アメリカで新聞不況深刻化「ザ・ロッキー」消える、ニューヨーク・タイムスは社屋大半を身売り

隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0904(通算175)
2009.3.15 

アメリカで新聞不況深刻化「ザ・ロッキー」消える
       ニューヨーク・タイムスは社屋大半を身売り

 

 受難の時代に入った地方新聞

アメリカの新聞がまた一つ消えた。227日に最終号を出し、150年の歴史に幕を閉じたのはアメリカコロラド州デンバーの名門紙「ロッキー・マウンテン・ニュース」。これでデンバーは「デンバー・ポスト」一紙になる。

「ザ・ロッキー」というニックネームで知られる同紙は昨年11月売りに出されていたが、折からの金融不況が深刻化したことから、買収交渉がことごとく失敗に終わり、廃刊のやむなきに至った。同紙は2000年に446,000部あったが今年2月段階では210,00部と半減していた。

 デンバーでは二紙体制を維持することは極めて困難な状況がここ5年来続いていた。そのためライバル紙のデンバー・ポストと協議した結果、総務、経理などの事務部門を統合、また印刷工場も共同で使用し編集部門だけを独立させるなどの合理化策を実行していた。228人の編集スタッフのうち、10人だけがデンバー・ポストに移籍する。

 アメリカの新聞危機は深刻化している。昨年一年の記者のレイオフは12,000人に達した。ハースト傘下のサンフランシスコ・クロニクルは20085,000万jの損失を出し、買い手を探すか閉鎖するかの二者択一を迫られている。シアトル・ポスト、フィラデルフィア・インクワイラー、シカゴ・トリビューン、ミネソタ・スター・トリビューンなどの各紙が会社更生法を申請中である。またマイアミ・ヘラルドやサクラメント・ビーを経営するシンクラディー社は39日、従業員1,600人のレイオフを発表するなど、不況に歯止めがかからない状態が続いている。

 いずれも長年の部数低迷に加えて、最近の極端な金融不況で広告が落ち込んだことで打撃を受けた。クラシファイドアド(三行広告、求人、求職広告)の落ち込みが大きいことが経営不振に直結している。

 

 ニューヨーク・タイムス本社屋身売り、大手紙にも不況の波ひたひたと

こうした状況は地方新聞だけではない。大手紙も深刻な経営危機に見舞われている。

ロサンゼルス・タイムスやシカゴ・トリビューンを所有するトリビューン・メディアは、2007年、シカゴの不動産王サミュエル・ゼルが経営権を握って再建を図っていたが、シカゴカブスの売却など資産売却がうまくいかず、昨年128日連邦破産法の申請を行った。

ニューヨーク・タイムスの場合、キャッシュ・フローの改善と首都圏版の強化の目的で昨年メキシコの投資家から25000万jを借り入れた。しかしそれでも収支改善できず39日、本社ビルの一部を22500万jで売却した。このビルは2007年に新築したばかり、56階建ての半分を自社所有にしていたが、さらに21階分を売却したものである。ニューヨーク・タイムスは部数の落ち込みが大きく、2006年に赤字を計上、2008年は損失を5800万ドル計上している。

31日付のワシントン・ポストはアメリカ中の新聞経営者が新聞経営に没頭しているため、227日に予定されていた「アメリカ新聞編集者総会」が延期されたことを伝えたが、ワシントン・ポスト自体も昨年下四半期の売り上げが77%も下落、そのため日曜情報版を廃止、ブックワールド(出版案内と書評専門ページ)を切り離しするなどの大幅改革を行っている。

ウォールストリート・ジャーナルを2007年に買収したマードックのニュースコープはニューヨーク・ポストなど新聞部門の簿価を30億ドル切り下げた。

大手紙は今、ブログ、ポッドキャスト、オンラインチャットなどを活用して、地域ウエッブ形式で地域読者への新しいニュース供給を図っている。新聞が果たして紙という媒体のまま生き残れるのか、それとも電子媒体への転身を図ることになるのか、その行き先はまだ定まってはいない。

 
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2009年03月07日

ゲーツ国防長官、星条旗の柩写真解禁を指示

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0903(通算174)
 2009.3.7 

  ゲーツ国防長官、星条旗の柩写真解禁を指示

ロバーツ・ゲイツ国防長官は227日、アメリカ軍戦死者の星条旗に包まれた柩の写真撮影に対する規制を解除すると発表した。この措置はバラク・オバマ大統領の要請によるもので、指示を受けたゲーツ長官は「家族の同意が得られ、プライバシーの配慮がなされれば、戦没者の栄誉をたたえる機会ともなる」として解除に踏み切った。長年にわたって戦死者の柩撮影の自由を要求してきたメディアの勝利と言える。

ベトナム戦争の際、空軍輸送機から次々に運び出される柩は戦死者の数の多さを示し、米軍の敗色が濃いことを伝えるものとして、反戦ムードを高める結果をもたらした。この苦い経験から、アメリカ軍は湾岸戦争時の1991年以降、星条旗で覆った兵士の柩の撮影を禁じていた。

ところがイラクでのアメリカ兵の死者が激増した20044月、クェート国際空港の航空貨物会社のアメリカ人女性社員タミー・シリシオが輸送機に積み込まれる星条旗の柩の列を撮影して、シアトルタイムスに送ったことがきっかけで柩報道論争の始まりとなった。シアトルタイムスは、「この情景を故国の母親たちに伝える必要がある」というタミーさんとのインタビューとともに418日の紙面に写真を掲載した。

ところでイラクからの無言の帰還兵はデラウエア州ドーバー空軍基地に戻ってくる。この空軍基地司令官に対して情報公開法にもとづく写真公表の申請が出ていた。申請者はウエブサイトを運営する編集者ラスク・キックであった。そして基地司令官は2004422 日、軍が撮影した写真350枚を公開したのだった。驚愕したアメリカ国防省は即日改めて写真の公表を禁止する指示を出したのだが時すでに遅く、ワシントンポスト紙はキックのサイトから引用する形で23日の一面で大々的に写真を掲載した。ドーバー空軍基地の司令官が公開を行ったのは、クェート空港貨物会社が、写真を撮影し新聞社に送ったタミー・シリシオさんを解雇したという報道を聞いたためであるといわれている。

その後星条旗の柩が人々の目に触れることがなかったが、それから5年後の今、政権交代、イラク撤退開始という劇的な状況下で撮影制限が取り除かれることになったことは、報道の自由が一歩全前進したことを示すものと言ってよいだろう。

しかしオバマ政権のもと、アフガニスタン増派という現実があり、星条旗に包まれた柩の本国帰還はまだまだ続くに違いない。

 
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2009年02月25日

シーシェパード体当たり」ニュースに思う、 NHKはカッコつき国益優先ではなく、まっとうな客観報道を

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0902(通算173)2009.2.25 

 「シーシェパード体当たり」ニュースに思う
 
   
NHKはカッコつき国益優先ではなく、まっとうな客観報道を
 
 毎年のことだが、今年も南極近くで日本の調査捕鯨船と環境団体、シーシェパードの追跡船との間でトラブルが発生している。
 26日のNHKニュース7は「また妨害活動」とタイトルをつけて次のように報道した。
 「アメリカの環境保護団体シーシェパードがまた妨害活動です。水産庁に入った連絡によりますと、南極海で調査捕鯨をおこなっている日本の調査船に今日の午前と午後合わせて3回接触しました。乗組員にけがはなく、航行に影響はないということですが、水産庁では許されることではないとして強く抗議しました」。
 同じニュースを伝えたフラン2NHKBSニュースで放送)では次のように述べた。
 「南氷洋の日本の捕鯨船に、環境保護団体の船が体当たりしました。日本は科学調査と称する捕鯨活動をやめようとはしていません。そのため複数の環境保護団体が怒りをあらわにしています。騎兵隊の衝突のような南氷洋の真ん中での船舶の体当たり、激しい衝突です。環境団体の黒い船が日本の捕鯨船に体当たりしました。その結果日本船の銛や船体が損傷、環境団体側には2人の軽傷者が出ています。このような追跡劇は毎年続けられています。五年前から環境保護団体シーシェパードが日本の捕鯨船を追っています。威嚇、妨害、ときには危険な行為ギリギリのこともあります。世界中で営業捕鯨は22年前から禁止されていますが、例外として科学目的の調査捕鯨は許可されています。その口実を毎年利用して日本は約千頭のクジラをとらえています。そのほとんどが食用として食べられています」。
 NHKは「シーシェパードの体当たり」をフラッシュニュースとして伝えているが、これは水産庁の発表をうのみにしたものだ。結果として「過激派の襲撃は容認できない」という世論形成に一役買うことにはならないか。
  シーシェパードはその後燃料が尽きたこと、世界中に報道されて抗議の目的を達したとして追跡を中止し、オーストラリアの母港に戻ったが、オーストラリア警察の捜査を受けているという報道もある。
 なぜ国際的にこのような日本の捕鯨に対する抗議の波が起きているのか十分報道されているとは言い難い。フランス2の報道では、科学調査は口実で、千頭のクジラを食用に回されているとしている。
 昨年、調査船の乗組員が捕鯨船上で食肉加工された鯨肉をお土産に横流ししたという報道もあったが、確かに南極の鯨が市場に出ているのは事実だ。大洋漁業など民間の水産会社はとっくの昔に捕鯨と鯨肉販売から手を引いている。
 市場に出ている鯨肉は国の外郭団体、財団法人鯨類研究所が販売しているものだ。以前は売り上げが年間
70億円に達したこともあるが、現在は市場が低迷、50億円を下回り、調査費用がまかなえない。それどころか国からの融資金の返済が滞るなど、赤字が膨らんでいる。
 22日には国際捕鯨委員会の作業部会が、日本が南極捕鯨から段階的に撤退すれば、近海での捕鯨を認めるという報告書を出した。日本側でもこの新提案を真剣に検討して打開策を見つけようという動きがある。  捕鯨を取り巻くさまざまな状況をひとつのニュースですべて報道しなければならないというわけではないが、「またシーシェパードの過激行動が安全航行を脅かした」とだけ伝えていればいい状況ではない。
 NHKのニュースが往々にして「国益ニュース」として批判されているだけに、短いニュースとはいえ、捕鯨船体当たりニュースの国際的背景に一言、言及すべきだったと私は思う。
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2009年02月09日

オバマ政権、全面デジタル化延期、果たして日本はどうする

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0901(通算172)
 2009.2.9 


 オバマ政権、全面デジタル化延期、果たして日本はどうする

クーポン予算無くなり、チューナー生産も追いつかず・・・。

オバマ新政権のデジタル移行日延期提案について激論を戦わしていたアメリカ議会は、23日下院が264158でアナログ延期を決めた。この結果217日が期限だったアナログ電波停止は612日まで、ほぼ4カ月延期されることとなった。

アメリカのテレビ世帯は11400万世帯だが、調査会社ニールセンによるとその6.8%,

775千世帯が依然としてデジタルテレビを持っていないという。アナログ電波が切れれば直ちにデジタル難民になる。

 政権移行を進めていたオバマチームはすでに1月の初め、移行延期を勧告する手紙を議会に送っていたが、政権が発足すると直ちに延期法案を上程した。

上院は賛成多数となったが下院は紛糾し一度は否決した後再投票で議決したものである。反対の強かった共和党からは23人が賛成に回ったが、与党民主党では10人が延期に反対した。

アメリカではテレビ視聴者の70%がケーブルあるいは衛星経由で地上波を見ている。そのため、ケーブル/衛星会社が契約世帯のセット・トップ・ボックスを取り換えればデジタル受信に切り替えられるため、デジタル転換は比較的簡単だと思われていた。

政府は貧困世帯や高齢者世帯が多いアンテナによる地上波視聴世帯に40ドルのクーポンを配布し、チューナーの購入を呼び掛けた。そのためにアナログ波オークションで国庫に入る財政の中から154000万jを計上した。

ところが折からの経済危機も手伝って、クーポンの申し込みが殺到、予算が尽きてしまうという事態になった。その上チューナーの生産も間に合わず、もし217日にデジタル移行を強行すると300万人以上が取り残されることも明らかになった。131日現在での

ウエイティングリストは260万件あると報告されている。

 テレビ局がオバマ提案に強く反対しなかったのは、最終案で、アナログ停波は217日から612日までの間に行うとして、問題がないと思われる地域の局が前倒しできるようにしたからである。

 

 ウイルミントン、ハワイでは前倒し実施

 アメリカではデジタル化の移行は慎重に行われていたため、土壇場になってこのような事態になるとはだれも考えなかった。

 最初に手をつけたのは20083月、ケーブルの再送信デジタル変換義務を2009年から3年間延長した。ケーブルに加入していればデジタルテレビを買わなくても2011年まではアナログのままテレビを視聴できるというわけである。20089月、アナログ放送を中止しても問題が起きないかどうかノースカロライナ州ウイルミントンで先行実験を行った。
 事前に周知を徹底した結果、地上波受信
15000世帯のうち知らなかったのが23世帯、受信がうまくいかなかったのか178件にとどまった。関係者がその日のうちに問題世帯に急行、デジタル機器等を手当てして事なきを得た。

 続いて2009115日にはハワイで全面切り替えが実施された。ハワイのテレビ世帯はおよそ45万世帯だが、ケーブルや衛星の視聴が多く、地上波をアンテナ受信していたのはその7%、23000戸に過ぎなかった。切り替え時点で、チューナーが買えなかった、うまくつなげないなどの苦情がコールセンターに数多く寄せられはしたものの、大きな混乱もなく乗り切ったと伝えられる。ちなみにハワイではマウイ島などにいる絶滅種のミズナギドリ(ペトレル)が生息しているのだが、産卵が2月であるため、アンテナ工事などを1月に繰り上げる必要があったといわれる。

 こうした準備にも関わらず、チューナーの製造が間に合わず、クーポン予算も涸渇したことから大問題となったものである。貧困世帯への生活支援などを柱とするオバマ政権は極めて迅速な対応を見せたといえる。

 

 日本の場合、デジタル普及はまだ35%、共聴世帯など難問山積

 ところで2年後の2011724日にアナログ放送を停止することが決まっている日本はどうだろうか。

 民放連の調査によれば、デジタルテレビを所有している世帯は、テレビ世帯の44.3%に達しているものの、実際にデジタルテレビを視聴している世帯は34.8%に止まっている。(20086)

 日本はアメリカと異なり、ケーブル世帯は40%、2000万世帯に止まっている。また山岳地帯に囲まれているため、デジタル化のために12000局もの中継局を建設しなければならず、そのためには山奥まで分け入る必要があった。

 20091月の段階でアナログ共聴に頼る世帯のうち山間地2万施設、1500万戸、都市集合住宅5万施設650 万戸の移行が難しく、一挙にデジタル難民に陥る可能性がある。特に都市部の老朽化した民間アパートマンションなどの集合住宅はアンテナの管理者を特定することも難しい。

政府と民放、NHKは衛星の空きチャンネルを利用してデジタル電波を空から送信することで乗り切りたい計画だが、それでは地元ローカル番組の受信ができないという大問題が残る。

 また政府は生活保護世帯、NHK受信料免除世帯などおよそ200万世帯にデジタルチューナーを無料配布するというが、生活保護を受給している世帯は限られており、生活保護水準以下の暮らしをしている人は400万人、年収200万円以下は1000万人以上いる。現在の経済情勢、派遣打ち切りなどでその数は急増しているのが現実だ。

 東京では東京タワーから向島のスカイツリーへの切り替えが2012年春に予定されていることも、事態を複雑化している原因の一つである。いったんデジタルに切り替えても1年後には再調整が必要であり、そのため新たな難視聴世帯が生まれることが予想される。高層ビルの林立する都心部ではアンテナ共聴多いこともあり、2度手間の転換がうまくいく保証はない。

 日本人の生活にとってテレビはガス、水道、電気、電話と同じライフラインとしての性格を持つ。今からでも遅くはない、政府、NHK、民放そして電機メーカーはデジタル計画を見直し、実現可能な計画を真剣に追求する必要があるだろう。

posted by media watcher at 16:12| Comment(0) | 隅井孝雄のメディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする