2009年10月31日

変るか韓国メディア地図、新聞社、大企業が放送参入へ

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0914(通算185)
 
2009.10. 30 
 
 変るか韓国メディア地図、新聞社、大企業が放送参入へ

 
 韓国でメディア関連新法発効
 
111日から
韓国の憲法裁判所は1029日、「韓国議会におけるメディア関連法の採決は有効」との判断を下した。メディア法は新聞産業や大企業の放送参入などを認めることによって、デジタルメディア時代の新しい発展に備えるという目的で韓国政府と与党ハンナラ党が提出した。しかし韓国民主党など野党勢力の反対で審議は紛糾、722日罵声と怒号が飛び交う中、強行採決された。野党は議場にいなかった議員が採決に加わっているなど、実際には過半数に達していない、として採決無効の仮処分を憲法裁判所に申し立てていたものである。野党は「政治的判決だ」と反発しているが、新しいメディア法は111日発効する。

 今回の改正の対象は「新聞法」、「放送法」、「マルチメディア法」(IPTV)などメディア関連三法である。その骨子は新聞とニュース通信社の兼営禁止条項を廃止する、これまで禁止されていた新聞社および大手企業の資本参加を認める、というものである。資本参加の場合の上限は地上波10%、ケーブル、30%、インターネット49%としている。

 かつて1980年軍事独裁政権のもとでのメディアの統合で民放の東亜放送、東洋放送が廃局、それ以来KBS(韓国放送公社)MBC二局となった。その後1991年に民放としてSBS(ソウル)など12の地域放送が生れた。MBS(文化放送)は広告を財源とする株式会社だが、その株式の70%は放送文化振興会(政府の外郭公社)が所有している。1990EBS(教育放送公社)KBSから分離した。事実上公共放送システムを中心とする寡占化体制が続いているといえよう。

 

 メディアコンテンツの多様化目指すイミョンパク政権

 イミョンパク政権は「2012年の完全デジタル化に備えるため、地上波、ケーブル、インターネットの規正を緩和する」としている。それによって「新聞、放送など韓国メディアのグローバルな競争力を高め、メディアコンテンツの多様化を促進する」のだという。またこうした改革で「メディアが活性化し、多様化すれば、若者に人気のあるメディア産業の雇用も増える」という。

 放送事情にくわしいジャーナリスト、アンミョンヒさんは「大企業は地上波に出る機会を窺がっている。しかし韓国ではインターネット、ケーブル、衛星、衛星モバイルで多様なサービスがあり、テレビ局を増やす意味はあまりない」と疑問を呈する。

 こうした状況に対して市民の側に強い反発がおきた。インターネット上には政府与党批判の書き込みがあふれ、韓国言論労組や民主言論運動市民連合などが、MBSなどの放送局やの支援を受けて大規模な抗議集会を開き、またKBSのプロデューサー、アナウンサーも一部参加するストライキも行なわれた。

 市民側の動向にくわしい尚志大学のキムキョンハン教授は「この動きに対して野党、言論労組を中心に地域メディア発展法を準備している」と語る。市民に身近な地域放送の新しい制度を創設することで対抗しようとする長期戦略が検討されているのだ。

 

 「メディアビッグバン」を歓迎する韓国新聞業界

韓国ではメディアの中で新聞の信頼度、接触率低下が著しいが、テレビの信頼度、接触率は極め高い。韓国言論財団の報道信頼度調査によると新聞の信頼度は1998年にテレビに追い抜かれて以来激減し、2008年には新聞16.0%、テレビ60.7%と大きく差が開いた。インターネットも新聞を追い抜き20%に達している。

 韓国メディア信頼度 2008 韓国言論財団

 

1998

2000

2002

2004

2006

2008

新聞

40.8

24.3

19.9

16.1

16.5

16.0

テレビ

49.3

61.9

48.4

62.2

66.6

60.7

ラジオ

7.3

2.5

4.3

4.4

1.4

2.7

雑誌

1.8

0.4

0.8

0.3

0.8

0.4

ネット

#

10.8

8.5

16.3

12.8

20.0

 
 新聞産業は今回のメディア法改正を「メディアビッグバン時代が来た」として、大いに歓迎している。「新聞と放送兼営、複数のケーブル総合チャンネルなどの許容でデジタル時代に向けてメディア産業構造を変化させるきっかけが出来た。現在の様な地上波の放送市場独占は維持できないだろう。新しいメディア技術の発展にあわせるという点で、今度のメディア関連法改定の意義を見出すことが出来ると思う」と韓国言論学界キムヨンギ会長
(漢陽大学教授)はいう(2009.9.14中央日報電子版)。新聞業界と政府の目指す‘未来戦略’が極めて端的に読み取れる発言である。

 東亜日報、朝鮮日報、中央日報の三大紙にとってはまさに起死回生の法改正だが、どのような形で参入するかはまだ見えていない。

 
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2009年09月08日

アメリカで波紋呼ぶ鳩山論文、だが冷静なオバマ周辺

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0913(通算184)
  2009.9.8 

アメリカで波紋呼ぶ鳩山論文、だが冷静なオバマ周辺

 

 掲載に至った経過は? 予想もしていなかった鳩山事務所

日米関係についての鳩山発言が、アメリカで波紋を呼んでいる。いったい何がどうなっているのだろうか。

発端は827日のニューヨーク・タイムス電子版。首相になる可能性のある民主党の鳩山代表がアメリカをどう見ているかを紹介した記事だった。これについて朝日新聞は29日の電子版で「鳩山氏の寄稿論文が米国内で波紋を呼んでいる」と書いた。確かにニューヨーク・タイムスの記事では鳩山由紀夫のバイラン付きだ。誰でもが鳩山氏自身がニューヨーク・タイムスに寄稿したかと思う。だがこれは誤りだ。

火種のもとの鳩山代表の論文は「私の政治哲学」と題して月刊誌「Voice 9月号に掲載されたものだった。鳩山事務所ではこれを英語と韓国語に翻訳してホームページに載せた。この英語翻訳版を見たアメリカの通信社「トリビューンメディアサービス」が「グローバルオピニオン」というコラムページ用に、外交政策の部分を抜き出し、「新しい日本は米主導の市場原理主義を拒絶、東アジアの統合を模索」という見出しをつけて配信した。これを受けてニューヨーク・タイムスの電子版はOP-Ed欄に掲載した。OP-Edとは論説対抗面にあり、寄稿形式で個人名の主張が掲載されるのが習わしだ。

「グローバルオピニオン」は世界の主要な政治家、経済人などの要人の主張、考え方を常にフォローしているコラムスタイルの配信記事でアメリカの主要メディアが契約している。ちなみにニューヨーク・タイムスの本誌は契約していないが、電子版は配信を受けている。

記事には鳩山由紀夫氏の署名があり、文末にはミスター鳩山は民主党代表で、日曜日に行われる選挙で勝利する可能性が高いと紹介されといる。またこの論文の「ロンガーバージョン」(全文)は日本の月刊誌「Voice」に掲載されているとの注釈がついている。

 93日の読売はVoice編集部によると英語要約版の掲載の許可を求めてきたのは「ロサンゼルスタイムス」だけで、他のメディアからは来ていないと報じた。暗にニューヨーク・タイムスの記事は無断掲載ではないかとほのめかしているが、97日付の毎日新聞によると「トリビューンメディアサービス」はロサンゼルスタイムスも傘下に持っていることから、(日本側に)誤解が生じたようだと伝えている。

 日本では、論文の一部しか使われていないと批判する向きがあるが、元の論文にあった「友愛」という政治哲学や祖父鳩山一郎の思い出などを割愛したことを責めるわけにはいかないだろう。日本でも日本に関連した部分だけを報じるのは日常茶飯のことではないかと私自身の体験から思う。私が読んだ範囲では外交政策の部分での省略はほとんどない。

 鳩山サイドは、このような形で記事が掲載され、国際的な反響があるとは想定していなかったのは事実のようだ。しかしこれからは鳩山"首相"の一挙手、一投足に世界の目が向けられるのだ。

 

 アメリカに伝わった内容は?

 ところでニューヨーク・タイムス電子版が記述した鳩山論文はさらに要約すればおおむね次のようなものだ。

日本はアメリカ主導の市場原理主義に翻弄された。その中で人間の尊厳が失われた。金融資本主義、市場原理主義に終止符を打ち、国民経済と国民生活を守ることが課題だ。

経済危機はアメリカスタンダードの自由主義経済に合わせるべきだという言う考えによってもたらされた。

日米安保は日本の礎石だが、同時に地域の経済協力と安全保障のため「東アジア共同体」の創設を目指す。

イラク戦争の失敗と金融危機でアメリカ主導のグローバリズムの時代は終わり、世界は多極化に移行する。中国は世界の主要経済国になる。アメリカと中国の間で、経済的独立を維持することが必要であり、そのために地域統合を促進する必要がある。

・・・・という部分で我々にとっては目新しいものではない。日本記者クラブでの会見などではこれ以上にきつい発言もあった。

 

あわてていないオバマ政権、民主党外交政策を熟知している

 選挙後の92日、ニューヨーク・タイムスの本誌は、アメリカの一部の外交専門家の間から「アフガニスタンや米軍再編などの問題で米国を支えてきた日本が離れるのではないかと鳩山代表の外交姿勢に懸念が高まっている」と改めて報じることで電子版記事をフォローした。また91日付のワシントンポストは「沖縄の米軍駐留については交渉の余地があるだろうが、北朝鮮の核問題を考えるとアメリカからの離脱はあまりにも危険だ」と論評を加えた。

 93日にはワシントンで日本関係の専門家、外交シンクタンク、政府関係者によるシンポジウムが開催され民主党の考える日米関係について論議が交わされている。キーワードは「懸念」だった。アメリカが経験する初めての日本の政権交代だから無理もない。

この論文をきっかけに日本の動向は久しぶりに国際政治の一つの焦点になった感じがある。鳩山論文が指摘することの多くは今や世界の常識となっている事柄であり、私は結果的に日本の外交政策が脚光を浴びたのはこの論文の功績だと思う。

何しろあの北朝鮮の国営放送が94日、ニューヨーク・タイムスの記事を引用し、鳩山論文を好意的に?紹介している。いわく(鳩山論文は)「イラク戦争の失敗と金融危機という悪結果によってアメリカ主導の世界化は終末を告げつつあると明らかにした」。

 

 こうした状況の中で、93日電話による鳩山、オバマ会談が開かれた。これは外務省を通さずにアメリカ大使館のルース大使が民主党に直接連絡して行われたものだ。大統領は「海を挟んだ両国で民主党が勝利した」ことに祝意を表明した。また鳩山代表は「オバマ大統領は日本にもチェンジに勇気を与えてくれた。未来志向の日米関係を築きたい。気候変動や核廃絶でも同じ考えだ、経済でも緊密に連絡を取り合いたい、日米同盟は基軸だと思っている」と述べた。

 実はオバマ政権はこれまでにも、幾度となく外交専門家を日本に派遣し、民主党の鳩山代表、岡田幹事長、菅代表代行、前原副代表などの首脳部と直接会談している。ヒラリー・クリントン国務長官も小沢一郎元代表と会った。オバマ政権はすでに民主党の対米政策を熟知しているとみるべきだろう。

 

 新しい日米関係の成熟には時間が必要だ

マニフェストでは民主党は緊密で対等な日米関係、普天間基地の移設などの合意の見直し、地位協定の改定、インド洋の給油活動の停止などを主張している。このほかにも最近浮上した、核持ち込みについての密約もの問題にも関心を示している。

 こうた中で最近民主党に接触した重要な専門家は4人に上る、ジョセフ・ナイ(元国務次官補)、ジョン・ハレム(元国防副長官)、ジェームス・ケリー(元国務次官補)、マイケル・グリーン(元国家安全保障会議アジア部長)らだ。

 この4人の共通認識は、鳩山内閣の姿勢がアメリカ国内で反発をうける可能性があるものとみている点だ。しかし長期的に問題を注視し、日米双方の努力が必要だという点でも一致している。

 彼らの助言は直接オバマ大統領に届いている。オバマ大統領は多くの点で鳩山代表、次期総理と共通の基本的国際認識を持っている。しかし給油ではアメリカ政府は活動の継続を望んでいる。日本、アジアにおける米軍再編、普天間基地の移転問題などの合意などについて民主党の政策を容易には飲めないことも事実だ。

 双方が忍耐強く交渉を繰り返す必要があるという点では両政権の間で合意があると私は思う。

 選挙戦の中で鳩山代表は、普天間の移転問題、インド洋の給油などで強い姿勢を示している。これは、沖縄県民の強い要求を背景にしているからだ。このほか最近浮上してきた問題に、核配備の日本持ち込みについての密約問題もある。

アメリカとの対等な関係を築くことに成功するのか、あるいは腰砕けとなるのかを国民は注視している。同時に核廃絶、環境問題、経済での日米の協力協調を日本の国民は強く望んでいる。

 しばらくの間、国民もまた忍耐強く日米両方の新しい政権の動きを見守る必要があるだろう。

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2009年09月07日

八月のテレビを見る

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0912(通算183)
 2009.9.7 

  これは「ジャーナリスト」第617号、825日付けに記載された「リレー時評、戦争関連番組に見る制作者の思い」を加筆して採録したものです。


 八月のテレビを見る

 かつてない敗戦特集、核特集 

夏休みに入って少し時間ができたので、思いっきりテレビ見た。折から86日の広島原爆記念日、89長崎原爆記念日、815日敗戦の日と重なったため、特集ドラマやドキュメンタリーが目白押し。そして日本が引き起こした戦争について、日本の未来についてじっくりと考える時を過ごした。

ほぼ2週間にわたって私が見た第二次大戦や核関連番組は実に18本、のべ30時間時間に達した。我ながらよく見たものだと思う。私は放送批評懇談会の番組選奨委員をしているので半ば義務もあるが、自分自身の戦後の記憶総決算という意味もあった。

NHKはドラマ「気骨の判決」ドキュメンタリー「ヒロシマ、少女たちの日記帳」、「核兵器のない世界を目指して」、「渡辺謙アメリカを行く」、討論番組「日本のこれから」など力作、大作を揃えたが、民放でも「最後の赤紙配達人」(TBS)、「戦場のラブレター」(日テレ)、「僕の父はB級戦犯だった」(テレ朝)など7本を数えた。

 

時間との闘い、オバマ効果

今年は戦後64年。テレビの場合50年とか60年とか切りのいい周年に力を入れることが多い。そういう習慣から見ると今年は、ナチのポーランド侵攻70年という以外にはいかにも半端な年なのに、なぜ番組が多いのだろうか。私はいくつかの理由が複合していると考える。

 戦争を知る世代が70歳を超え、時間との競争になっている。制作者たちは今しかない、という切迫した思いにかられているのではないか。

 アメリカのオバマ発言の影響もあると思う。彼は初めて核兵器を使用した唯一の国としての責任について語り、核廃絶を目標にすると言及した。もはや核は抑止力ではなくなった。それどころか北朝鮮やイランの状況を見ても人類にとって危険な存在だ、とキシンジャーなど元国務長官、元国防長官クラスの要人も廃絶を指向している。核兵器廃絶の運動は今年以降かつてない高揚期に入る。その状況は報道番組の制作者にも反映しているのではないか。またイラクやアフガニスタンの現状を知るにつけ、戦争で武力では何も解決しないという考えも広がっていることが背景にある。

 

 歴史と向かい合う制作現場

 民放では日本テレビ系の「NNNドキュメント」や毎日放送の「映像09」などが格差社会に切り込んで注目を浴びたことから活性化し、積極的な報道活動を続けている。2008年秋からは民放の番組編成でかつてなかったほどプライムタイムの報道番組が増えた。

私の知る範囲ではNHKの放送現場は歴史に正面から向かい合おうとしている。試行錯誤はあるようだが、NHKスペシャルなどで、朝鮮併合、中国への侵略など日本の近、現代史がしばらく続く。番組と連動して「戦争証言」を集めアーカイブ化するプロジェクトもNHK813日からはじめた。

NHKや民放の番組のあり方についての批判の声が多い。もちろん批判すべき経営姿勢、番組内容が多々あることを否定するものではない、しかしさまざまな番組を見続けている私としては、放送番組を制作している現場と、市民社会をつなぐかけ橋をどのように構築するか、ということを常に考える。

テレビはインターネットが発達した現在でも非常に大きな視聴者を持っている。テレビに見入っている人の数や人々の視聴時間はこの10年ほとんど変わっていない。依然としてテレビは重要なメディアだという認識が私にはある。

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2009年09月01日

衆議員選挙と出口調査

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0911(通算182)
 2009.9.1

衆議員選挙と出口調査

 

開票零でも当確?

830日、選挙当日テレビ各社は投票が締め切られた午後8時、一斉に当選者予測数の政党比較を画面に映し出し、民主党の歴史的勝利だ、政権交代は確実だと伝えた。

これらの数字は、事前の選挙情勢分析調査に、当日の出口調査の数字を加味して各局がそれぞれ計算したものだ。この数字の基になったデーターがコンピューターで統計処理され、当選確実の根拠となる。どの局も午後8時丁度に予測結果を画面に出したいために、出口調査は午後6時で打ち切り、データー処理に回した。

NHKは番組の冒頭で次のように説明した。

4200ヵ所の投票所で49万を対象に出口調査を行い、74%に当たる368000人から回答を得た。この数字に、期日前投票での調査を含めた全国での情勢取材を加えた。そして当確はこれらの数字に、開票状況を加えて総合的に分析して決めていく」。

さらにNHKの開票速報番組ではこう続けた

「公式発表がなくても、開票率が低くても、優勢の見極めがつけば当確と報道する。また開票されなくても大差がつくことが確実だと判断できれば当確とする」

つまり開票の選管発表とは無関係にテレビが次々に当確を決めているわけだ。事実NHKが選管発表の開票の数字を画面に映し始めたのは午後1012分だが、その時点では、310議席に当確が出ていた。大阪10区の場合午後1017分に開票4%の数字が出たが各候補とも揃って200票であるのに、辻本清美候補に当確のマークがついている。その直後の画面では山口4区の安倍晋三候補は開票0%なのに当確のマークがついた。そして選挙事務所は万歳をして店じまいに入る。比較的当確を打つのが遅いNHKですらこのありさまだから、民放の方は推して知るべしだといえるだろう。私たちは3時間近く仮想現実を見続け、ようやく選管発表の数字が出始める頃には、すべてが終わったと考えて、テレビの前から離れる

私はこのような形での選挙報道の強い違和感を持つ

 

 アルバイトに頼る出口調査

 出口調査には大量のアルバイトが動員される。選挙当日7時からおおむね10時間前後の仕事で時給1000円以上、日給12,000円以上が相場だから、かなり条件が良い。ちなみに京都新聞は食事代込み、10時間勤務で13,000円だった。選挙当日以外事前に3時間程度の講習が行われる。なかなかの人気アルバイトで応募者が多い。

 今回の選挙ではNHKの場合300選挙区、4,200投票所に記入シートを手にした調査員が張り付いた。TBS7,200投票所、20万人が対象、テレ朝も7,000ヵ所54万人を対象にした。テレビ局に聞くと「訓練された調査員を派遣している」というが、要するに人材派遣会社に募集を頼み、研修3時間程度こなした大量のアルバイト群が頼みの綱ということだ。

 有権者の動向調査としては貴重な資料になるが、開票当日の当確に使うのは問題があると私はおもう。

 

 元祖アメリカは慎重、ブッシュ・ゴア選挙がトラウマに

 出口調査はアメリカで1964年から始まった。日本では1989年から部分的に使われ始めたが、1992年の参院選でNHKと日本テレビが全選挙区で調査し、放送に反映させたのをきっかけに本格的利用が広がった。

 ところが現状ではアメリカは僅差の場合出口調査を倒閣に使わないなど日本より慎重な開票速報を行っている。昨年11月のアメリカ大統領選ではオバマの当確は午前零時を超えた。何といっても9年前、2000年の大統領選で、ブッシュ対ゴアの当確発表がもつれにもつれた経過がトラウマになっているからだ。

 この年、大統領選の投票数最終結果はブッシュ47.87%、ゴア49.38%(差1.41)だったが、ブッシュの当選となった。最後に競り合ったフロリダを「ブッシュがとった」ということで逆転したのだ。

 選挙当日、午後750NBCが出口調査をもとにフロリダでゴアが勝ったと報道したのがドラマの始まりだった。テレビネットワークは午後8時以降9時にかけて次々に次期大統領にゴア当確を打ちだした。ところが午後10時になってフロリダでのゴア当確をCNNなど各局が取り消し、さらに午前2時、ブッシュがフロリダを取って次期大統領という当確報道が出た。ところがその1時間後、票差が1800票しかないということから、当確は取り消しとなった。結局決着がつかず、票の数え直しをめぐって最高裁の審理にもつれ込んだ末、ブッシュ大統領が決まるという曲折をたどった。

 2004年の大統領選でも、最後の大票田オハイオ州で票差が少なかったことから、テレビ各局はブッシュの当確を翌日まで持ち越した。2%から3%程度の開きは誤差の範囲だとして、出口調査は使わない、優勢の判断はしないというのがアメリカのテレビの不文律となった。当確が午前零時が過ぎてからしか出なくなったのは、アメリカ国内の時差が5時間あることも反映している。

 

 テレビ各局、出口調査予測星取表

 下の表はテレビ各局が午後8時に出した議席予測の一覧表である。すべての局が民主党の獲得議席308よりも多めに出した。TBS、日テレ、テレ朝は320を超えている。反対に自民党の議席数は実際の119より少なくなっている。テレ朝の106が最高であとは100を割り込むという予測だった。調査の専門家によると、勝ち馬に投票した人はやや得意げになって、調査に積極的に協力するが、負けた側に投票した人は、出来れば調査は避けたいという心理状態になる傾向があるという。また少数政党を支持する人は自らの信条を少しでも多くの人に語りたい思いがあるから、積極的に調査に応じる度合いが高いとも言われている。確かに多くの局で公明、共産、社民の数字が結果より高く出ている。

 今回の予測一覧を見る限り、出口調査につきもののバイアスがあるのだと言えそうだ。

 NHKは上限と下限を出しているのでその中間値を見ると多局と比較できる。参考までに827日付の朝日新聞の予測を最後のコラムにつけ加えた。

 

テレビ各局議席予測

 

TBS

NHK

日テレ

テレ朝

フジ

最終結果

朝日

自民

97

84-131

96

106

97

119

103

民主

321

298-329

324

321

315

308

321

公明

20

12-36

23

22

23

21

24

共産

12

7-18

10

12

12

9

9

社民

11

4-15

8

7

10

7

9

国民

3-6

4

3

4

3

3

朝日は827日、他は830日、日本、大地、みんな、改革、諸派、無所属は省略した。

  
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2009年06月23日

揺れるNHKその2 「坂の上の雲」への批判の動き、日露戦争の歴史観をめぐって

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0910(通算181)
 2009.6.23 
 揺れるNHKその2 「坂の上の雲」への批判の動き、日露戦争の歴史観をめぐって

 

舞鶴ロケ始まる

 NHKが鳴り物入りで宣伝している「坂の上の雲」のロケが本格化し、放送日も200911月に決まった。615日の京都府舞鶴ロケでは、海軍大臣山本権兵衛(石坂浩二)が軍港舞鶴を訪ねるシーンが撮影された。鎮守府長官東郷平八郎(渡哲也)に会うためである。舞鶴には明治時代の赤煉瓦街が残っているのに加え、鎮守府長官官邸も残っている。この訪問で山本権兵衛は東郷に連合艦隊の司令長官抜擢することを告げる。また京都市内の府庁本館も明治時代の建造物としてロケに使われた。

 

 番組批判のシンポジウム718

 ところがそのおひざ元の京都718NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲を考える」というシンポジウムが開かれる。奈良女子大学名誉教授の中塚明氏の講演とパネル討論という内容だ。中塚教授は歴史家の立場から司馬遼太郎の「明治栄光論」を批判する論文を書いている。「日本は日清、日露戦争を経て世界の大国の仲間入りをした。それは日本の朝鮮支配と表裏一体の関係にある」(前衛20096月号、NHK坂の上の雲を問う)というのが彼の立論だ。

 NHKはこの番組の企画意図として「明治時代のエネルギーと苦悩をドラマとして描き、現代日本人に勇気と示唆を与えるものとしたい」、「(明治は)新たな価値観の創造に苦悩、奮闘した時代だった。この作品のメッセージは日本のこれから向かうべき道のヒントを与えてくれる」と広報資料に書いている。このような史観に異論が出るというのもまた当然だと思う。

 

司馬本人が望まなかったテレビ化、映画化

「坂の上の雲」は第一部が200911月から12月にかけて5回放送、続いて2010年秋に第二部4話が、2011年秋に第三部4話が放送される。3年がかりで13話という壮大なスペシャルドラマである。

 しかし企画段階から茨の道を歩んだ。2000年頃企画が出されたようだが、司馬家の許諾が難航した後、脚本家の選定も困難を極めたと伝えられる。結局当時映画「破線のマリス」、フジテレビ「水曜日の情事」など話題作を次々に発表していた野沢尚が引き受けたが、2004年彼が自殺して暗礁に乗りあげた。今回はほぼ野沢脚本を生かす形で池端俊策、岡崎栄の監修による構成台本があがり、20071月ようやく制作発表にこぎつけた。

 司馬遼太郎側の放送権に許諾が遅れた背景には次のような事実がある。司馬遼太郎自身が映画化、テレビ化を望んでいなかったからだ。1986521日放送のNHKETV8」の中で本人が次のように語っている。

「坂の上の雲はなるべく映画とかテレビなど視覚的なものに翻訳されたくない作品であります。うっかり翻訳するとミリタリズムを鼓吹しているように誤解される恐れがありますからネ」この発言は1998年にNHK出版が出した「昭和という国家」の中にも採録されて残っている。

 

どこへ行くのか大型企画「プロジェクトJapan

実は「坂の上の雲」はNHKが総力を挙げて取り組むという「プロジェクトJapan 企画の一環である。それについてNHKホームページでは次のように述べている。

2009年は「横浜開港150年」、2010年は「韓国併合100年」、2011年は「太平洋戦争開戦70年」、「サンフランシスコ講和条約60年」。近現代史の大きな節目の3年間「坂の上の雲」、NHKスペシャル、プロジェクト関連番組を多角的に展開し、これからの日本を考える大いなるヒントとしたい。

しかしその入口でNHKスペシャル「アジアの一等国」が右翼の抗議にさらされる一方、秋に登場する「坂の上の雲」もまた別の角度からの批判が待ち構えている。

私は一連の企画はNHKの制作者たちが議論を積み重ねた結果世に問う一大プロジェクトだと理解し、積極的なものとして受け止めている。ただ「坂の上の雲」は企画全体とはズレがあるように思えるのだが、第一部のクライマックスで日清戦争をどのように描くのか興味がある。

いずれにせよNHKの制作者たちは、さまざまな思惑を超えて番組の内容で真剣勝負してほしいと願うのみである。

 

「プロジェクトJapan」のホームページ

http://www.nhk.or.jp/japan/

「坂の上の雲のホームページ」

http://www.nhk.or.jp/japan/sakanouenokumo/index.html

 
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2009年06月21日

揺れるNHKその1 台湾植民地化の歴史認識が争点、抗議の嵐吹き荒れる

隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0909(通算180)
2009.6.21 
揺れるNHKその1 台湾植民地化の歴史認識が争点、抗議の嵐吹き荒れる 


 NHK
が揺れている。きっかけはNHKが始めた「Japanデビュー」の第一回として放送された「NHKスペシャル、アジアの一等国」(45日放送)。台湾を植民地にし、皇民化政策を推し進めたことがテーマだった。この番組に対してNHKの自虐史観だ、売国放送だとの批判の大合唱が起きているのだ。

毎日新聞によると611日、この番組が偏向しているなどとして、自民党国会議員有志が「公共放送のあり方を考える議員の会」を開いたという。設立総会には安倍晋三、中川昭一氏ら60人が出席した。「歴史教育を考える議員の会」(会長中山成彬氏)もNHKに質問書を出した、と報道している。事実なら、またか、といいたい。

スカパーにある日本文化チャンネル桜(219)ではNHKの偏向問題として、ニュースで大々的に取り上げ、桜井よし子さんの講演なども録画中継している。そして番組やホームページNHKの抗議する国民大運動を627日に全国展開すると呼びかけている。ちなみに「チャンネル桜は」日本人の心を取り戻すチャンネルだと説明されている。ニュースワイドが中心だが、番組の中には「田母神塾」(月曜)、「自衛隊スペシャル」(土)「防人の道、今日の自衛隊」(月金)などがある。一日4時間の放送だ。

612日に公表された5月度のNHK経営委員会では小林英明委員(弁護士)から「放送法上問題になる部分がある」との発言があった。経営委員会で番組の是非が論じられることは極めて異例だ。

このような状況の中で617NHKはこの番組のホームページに批判への反論を掲載した。アドレスは次の通り。http://www.nhk.or.jp/japan/pdf/asia.pdf 一読されたい。
 ところでこれに追い打ちをかけるように613NHKがニュース7で放送した満蒙開拓団のニュースにも抗議が殺到している。このニュースは羽田澄子監督が制作した「嗚呼満蒙開拓団」という映画の試写が岩波ホールで行われたという単純なニュースだ。映画そのものは羽田監督が満蒙開拓団の生き残りの人々にインタビューを重ねた記録である。抗議の多くは、「開拓団の数十万の犠牲は、八路軍とソ連軍のせいだ」というやや見当違いなもののようだ。 従軍慰安婦を扱った2001年のETV特集改変問題の余燼はくすぶったままだ。今回の抗議の嵐をどのようにNHKは乗り切るのだろうか。
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2009年06月05日

アメリカ新聞協会(NAA)がニューヨークタイムスに意見広告  新聞は元気だ?????? 七つの疑問に答える

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0908(通算179)2009.6.4 

 アメリカ新聞協会(NAA)がニューヨークタイムスに意見広告
 新聞は元気だ?????? 七つの疑問に答える 


  私のフログでアメリカの新聞危機が続いていると何回か書いたが、最近ニューヨークタイムス紙上に、アメリカ新聞協会の全面広告がのった。

掲載されたのは522日付の「ニューヨークタイムス」。その全国ニュースページの20ページ目だ。一連の新聞危機報道に対して、新聞協会(NAA)のジョン・F・スターン会長が「新聞についてのリアリティ―」と題して反論している。

 「ここ2年来かつてない経済的困難に直面、さらにアメリカ経済のメルトダウンで広告不況という打撃を受けた。しかし印刷であろうとデジタルであろうと新聞メディアはしっかりとした基盤を持っている。さらにマルチメディアプラットフォーム力でさらに強さを持つメディアになる」、と述べた後、7項目の質問に答えている。

 「読まれていないのでは」に対しては、読者は毎日1400万(日曜11500万)、スパーボウル(9400万)よりも、アメリカンアイドル(2300万)よりも、テレビニュース(6500万)よりも多い数字だ、と反論する。

 「若者が読んでいないのでは?」、1週間に若い世代(16歳から34歳)の65%が新聞を見るか新聞のウエッブサイトを訪れている、「読者が減っているのでは?」、2007から2008の落ち込みは1.8% に止まる、2004比較でテレビ視聴者は10%減ったが新聞は7%だ。新聞のウエッブ読者は2004年比で75%増えて、月間ビジターは7300万人に達した、と数字を上げて健在ぶりを強調している。

 「新聞事業はなりたたないのでは」という意見に対しては、いやそんなことはない、以前より落ちたとはいえ経営基盤は健全だという、「ジャーナリズムレビュー」誌の記事を援用した。広告についてはグーグルの調査データーを使って、新聞を見て商品を購入する人は56%に達すると紹介、また新聞広告はデーターベース・マーケッティング、行動ターゲティングなど新しい広告の開発を行い、これまでになかった、スキャン広告。蛍光広告などなど、新広告手法も次々に生みだしていると自賛している。

 締めくくりは「新聞がなくなったら?」。ここでは新聞が様々なメディアのニュースソースになっているし、ブロッグやテレビと比較し記事の深さや広さは他の追従を許さない、決して他のメディアは新聞にとって代わるものではないと説明した。

 新聞は変化しつつあり、あらゆるメディアを統合した情報手段であり、広告手段だというのが結論。

 

 この広告は新聞がネットを取り込んで領域を拡大しつつあるという趣旨のように聞こえるが、配達される紙の新聞としての命運についてはほとんど語っていない。

 NAAの調べによると2009年の第1四半期の広告収入の落ち込みは前年同期比−29.7%に達し収入は59億j(07年同期98.4億ドル)に止まったということだ。まるで自動車産業並みの落ち込みである。注目されるのはこれまで増勢を続けてきたインターネットからの広告収入も、2008年4月以降減りはじめ、09年第1四半期では前期比−13.4%6 9000万jに止まった。

 新聞は依然としてジャーナリズムの雄であり、基幹的メディアだと私は思う。新聞がなくなればテレビやインターネットも基本的情報ソースを失うことになる。新聞を核としてジャーナリズムが健全さを保つということは民主主義社会にとって欠かせないものだ。

 世界的経済不況の波を受ける新聞産業は、苦闘の中で活路を切り開いてほしいと思うが、今のところその決め手は見つかっていないのが現実だ。

 

 

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2009年06月01日

番組批評「お買いもの」(NHK)、「なぜ警告を続けるのか」(毎日放送)

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0907(通算178)
   2009.5.31  
 番組批評「お買いもの」(
NHK)、「なぜ警告を続けるのか」(毎日放送)
  

 6
2日、放送批評懇談会から年間のテレビ優秀番組を表彰する「ギャラクシー賞」が発表される。私は昨年度からこの賞の選考委員を務めているため、これまでになく多くのテレビ番組を、時間をかけて見るようになった。テレビの制作者たちが心血を注いだ番組を見るのは心地よいことだ。テレビも選んで見る、心して見るということになれば優れた番組が実に数多く放送されていることに気づく、というのが私の偽らない実感である。
 私が強く押した二つの番組が入賞した。214日に放送された「お買い物」(NHK)と昨年11月に放送された「なぜ警告を続けるか」(毎日放送)である。 以下に月刊誌「ギャラック」に掲載された「お買い物」と「なぜ警告を続けるか」の番組批評をそのまま掲載する。

 「お買いもの」 NHK 214日放送 
 銀座のカメラ店の店主と店員の会話が年寄りの旅の結末を暗示、絶妙なプロローグである。芝居ならこれがいわば幕前で、カーテンが上がると田舎の茶の間の老夫婦。久米明と渡辺美佐子が演じる夫婦の会話が絶妙だ。特に久米の老人特有の言葉使いがリアルに響く。
 シンプルなカメラワークが会津の田舎の風景をきわめて現実的なものとして描き出してくれる。そして効果的に挿入されるチェロとピアノのこれもシンプルな音楽が久米明の足取りをゆったり伝える。
 カメラ屋のDMが老人の心を揺さぶった。かくして赤いジャンパー姿の久米は渡辺を伴っていざ渋谷へ。だんだんしっかりしていく久米の変化がセリフまわしにうまく出ている。
 電車のなかでの切符騒動、初めて見るケータイ改札、スタバでのコーヒー選び、孫のアパートでのラザニアなど、一つ一つのエピソードがそれなりにディーテイルを伴って現代社会の断面になっているようだ。
 矯めつ眇めつ、迷いに迷って手にしたカメラを持って再び渋谷の街へ。迎えにきた孫娘とその彼氏との会話もまた極めて自然体で進行する。時代遅れだがかつては高級だったフィルムカメラと、人生の思い出の波長がうまくシンクロしている。
 幕切れの縁側のシーンが全体の流れから見ると説明的だったのが気にかかる。
 最近ゆったり進行するドラマ、セリフ、映像を丁寧に積み重ねるドラマが増えたような気がする。テレビのごく初期に舞台劇の延長のような読み切りドラマが繁栄したが、50年、60年のサイクルでそれがまた戻ってくる気配がある。NHKがその先鞭をつけているようだが、民放でも地方局の周年ドラマなどに時折その手の作品を見かける。
 脚本の前田司郎は初めて聞く名だが筆は確かだ。聞けば演劇の経験が豊富で岸田国士賞も得ているという。彼のような新鮮な才能を持つ練達の脚本家がテレビの世界で活躍してくれることは嬉しい。
 中島由貴の演出も会話やカメラワークにドラマとしての気配りが行き届いていた。
(隅井孝雄、「ギャラック」(2009年5月号より)
 注、前田司郎は513日「夏の水の半漁人」で三島由紀夫賞を受賞した。  

 なぜ警告を続けるか、京大原子力実験所異端の研究者たち
 毎日放送、映像08 20081020放送 
 個人的な話だが京都での私の知人に安斎郁郎先生という人がいる。国際平和ミュージアムの名誉館長として核廃絶など平和問題でのリーダー的存在である。20063月彼は立命館大学退職記念に際し「生き越し方を振り返って」と題する講義を行ったが、そこで私は安斎先生がもともとは原子炉研究の専門家であり、東大医学部放射線教室の助手を17年続けたという経歴を知った。原子力の安全性についての発言や行動により、危険人物視され、尾行も付いたという。
 1020日深夜放送された毎日放送のこの番組を見て、同じことがまだ続いているように見えるが、日本は原子力エネルギーについて考えるべき新たな地平にいることを改めて知った。歴史はらせん状に変化する。
 大阪府熊取町に白いドームの京都大学原子炉実験所がある。この実験所で28年間100回にわたる勉強会「原子力安全ゼミ」が開かれている。小出裕章さん、今中哲二さん、そしてすでに退職した4人の科学者たちは「原子炉の安全性」ではなく「危険性」を訴え続けてきた。原子炉反対訴訟で証人に立ち、しばしば国側の証人(多くが東大教授であった)、を立ち往生させたことを番組は伝える。
 高速増殖炉もんじゅや、六ヶ所村再処理工場がストップしたままである。柏崎原発を引き合いに出すまでもなく、国の原発行政が破綻している。助手あるいは助教という差別的身分のままで研究を続け発言を続けている彼らこそは「異端」ではなく「正統」であるべきことを時代が要求している。
 小出さんたちはクーラーを消し、電気を消し、原発に依存しない新しいライフスタイルを提唱している。
 アカデミズムの立場でいえば、京大と東大では国家権力との距離に違いがあることもくみ取れた。この番組は東京では放送されていない。最近報道ドキュメンタリーが見直されている今、毎日放送の映像08を是非とも全国放送に取り上げてもらいたいものだ。
 隅井孝雄、「ギャラック」(20091月号より)
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2009年03月27日

危ういインターネット情報源、 ウエブ上のネタサイト、バンキシャ事件で明るみに

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0906(通算177)
 2009.3.27  危ういインターネット情報源、ウエブ上のネタサイト、バンキシャ事件で明るみに 


 応募ネットサイトが情報源だった

日本テレビ「真相報道バンキシャ」の偽造証言事件が新たな展開となった。

この事件は番組内で発言した「岐阜県庁に裏金」という証言が真っ赤なウソだったというもので、出演した蒲保広容疑者は偽計業務妨害で岐阜県警に逮捕された。

日本テレビの調査によると蒲保広容疑者はインターネットサイトで番組に応募し、20053月にもバイアグラの体験者として「バンキシャ」に出演しているという。今回は謝礼を出していないが、2005年には一万円と交通費を得ている。この経緯は324日の番組審議会で報告された。一方日本テレビだけではなく、テレビ朝日も2005年にスーパーモーニングに2回出演、一万円の謝礼を受け取っていると公表した。

どうやらインターネットによるネタ提供の常連らしい。

 今回の場合、蒲容疑者に謝礼は払われていないというのが日本テレビの説明だが、通常ネタサイトに対してテレビ局が情報募集料として一件3万円程度支払うことが慣行となっている。番記者がどのネタサイトに接触したのか、どのような形で支払いをしているかどうかも明らかにする必要があるだろう。またインチキネタが報道、情報番組で流されている可能性もあり、民放連として調査するとともにインターネット情報源利用基準の確立も望まれる。

 

 隆盛極めるネタサイト

 民放テレビには数多くの報道番組、情報番組が林立しているが、多くの番組がインターネット経由で情報を収集しており、テレビ局相手のいわゆる「ネタサイト」が隆盛を極めている。

 もともとは「情報をお寄せください」という形で番組が直接視聴者にメール情報を送ってもらうルートをネット上に開くというのが定番だ。たとえばTBS「サンデーモーニング」の場合ホームページの中に「ご意見&ネタ募集」という案内があり、視聴者がメールで情報を寄せてくれば、早速接触し、取材、裏付けを行って番組に取り上げる仕組みだ。

しかし2005年頃からこうした情報提供がインターネット上のビジネスとなった。会員が20万人いるとうたう最大手のメディアパークの場合、サイトを開くとテレビ局や雑誌社が募集をかけているネタの一覧が締切日順にずらりと並んで出てくる。いわく「壮絶浮気バトル体験者」、「防犯プロ伝授します」、「カーネルサンダースが道頓堀川に沈んだ日目撃者」、「給与明細を見せていただける方」、「東京で派遣切りにあわれた方」・・・・。そして募集掲載料3万円と明記してある。

https://user.mediapark.jp/visitor/static/gEvent/service

 

アメリカでは、HARPOの場合

この手の情報提供はSNSなど情報交換サイトが盛んなアメリカが先輩格だ。ヘルプ・ア・レポーターズ・アウトHarpoは一種のメーリングリストで、会員登録をするのだが、日本の場合とは違い一切無料だ。私もフリージャーナリストとして登録しているが、調べたい項目を入力すると、関連する情報を会員から集めてメールしてくる。日本との最も大きい違いはあくまでの個人の記者をサポートするという考え方に基づいたウェッブ運営であることだ。このサイトの運営責任者はPRコンサルタントのピーター・シャンクマン。もともとはSNS情報交換ページとしてスタートしたが、メディアからの要望が多く、専門ページとした。財源はウエブページに掲載する広告収入である。登録者は5万人に上る。

このようなレポーター向け専門サイトのほか、SNSやブログにもメディアへの情報提供を目的としたものが多数あり、メディアの側でも専門的にウエブ・ウォッチ体制をとっている。APでは重要な情報をウエブ上で見つけると、ウエブアラートをメディアに向けて発信するのが慣例となっているほどだ。編集局内でブザーが鳴り、赤ランプが点滅し、記者が一斉に取材に走る。ドラッジ・レポートが報じたモニカ・ルインスキー事件の発端がそうだった。

アメリカではデーターベースで情報を探すだけだと、情報源に偏りが出るため、複数のメディアに同じ人物のコメントが出ることがよくある。広く一般の市民からの情報提供を主体としたHARPOが重宝される理由の一端もそこにある。

こうした新しい形での情報ソースについてアメリカでは情報源に直接当たりなおして正確性を期すことが当たり前にとなっているが、インターネット情報の扱いについて何らかのガイドラインが必要だという声も最近とみに強まっているという。

http://www.helpareporter.com/

 

日本の場合個人情報保護法が施行された2005年以降、インターネット情報に頼る取材が増えたといわれている。最初はもっぱらワイドショー、情報番組だったが、最近では正規軍である、ニュース報道、報道番組でも無視できない情報源ともなっている。さらに朝日新聞など大手新聞メディアも活用するようになった。

今回の日本テレビ偽造証言事件の経験を踏まえ、インターネット取材源利用のガイドラインを早急に策定することが必要だと私は思う、

 
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2009年03月19日

紙からネットへ転換、新聞業界が注目 「シアトルインテリジェンサー」新聞発刊を停止、WEB新聞に全面移行

 隅井孝雄のメディアウオッチ No. 0905(通算176)
 2009.3.19 

 紙からネットへ転換、新聞業界が注目
「シアトルインテリジェンサー」新聞発刊を停止、WEB新聞に全面移行  
           
 先日のブログで、「アメリカでは新聞が果たして紙という媒体のまま生き残れるのか、それとも電子媒体への転身を図ることになるのか、その行き先はまだ定まってはいない」、と書いた。
 ところが317日、シアトルポストインテリジェンサー(シアトルPI)という名門紙が、新聞発行を停止し、インターネットに全面移行することになった。
 シアトルPI紙はシアトルの人口が150人にすぎなかった南北戦争のころ発刊され146年の歴史を持つ名門紙で、ハーストグループの傘下にあった。地元ではPI(ピー・アイ)という愛称で親しまれてきた。シアトルPIのデイヴィッド・マカンバー編集長はインタビューに答えて「紙の新聞は発行しないがインターネット上のWEB新聞に転換する。価値がなくなるということではない」、と語った。
 シアトルPIの親会社であるハーストグループはもとより全米の新聞経営者がこの実験的試みに注目している。新しいビジネスモデルとして軌道に乗るかどうかが問われているからだ。
 シアトルPIは記者、従業員を165人削減しで20人のスタッフで再出発する。自前の記事もあるがコメンタリー、アドバイス、他のニュースサイトのリンクが大幅に増える。また元市長、元警察長官、元公立学校長などをウエッブサイトのコラムニストとして新たに契約、ふんだんに地元の記事を盛り込むという。
 これまで
5年間シアトルPIのウエブサイトのエディターだったマイケル・ニコロシーが新しい編集長に就任した。
 シアトルにはシアトルタイムスとシアトルPIの二紙があったが、印刷やマーケティングをシアトルPI共同で行ってきたシアトルタイムスはパートナーを失って厳しい状況に立たされることになった。またアメリカ北西部一帯でウエッブニュースを展開しているシアトル本拠の非営利サイトCrosscut.comも新しい競争に立たされることになった。
 シアトルPI2000年以降赤字が続き、2008年には1400万jの赤字を計上、ハーストグループ本社が買い手を探していたが見つからず、今回の停刊に至ったものである。
 このニュースを報じたABCテレビは「株価が連日上昇に転じている中、新聞産業の危機のニュースだけは止まらない」とコメントしている。
 日本の新聞経営はまだ安泰とみられている。それは宅配制度や再販価格維持制度に守られてのことだが、新聞が読まれなくなっていることは事実だ。特に若い世代はほとんど読まない。早晩新しいビジネスモデルに転換する必要に迫られるのではないか。
 参考
 シアトルPIのウエッブサイト
 http://www.seattlepi.com/ 
 NYTの記事 
 http://www.nytimes.com/2009/03/17/business/media/17paper.html?th&emc=th
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